あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いいたします。
今年も密門会は、 従来通り、 織田隆弘先生の提唱された
真言易行道の教えを学び実践していく。
特に今年の春の講習会は久しぶりに青森青龍寺で四月二十七日に開く予定である。 東北・北海道の会員は、
是非参加してほしい。 来年の平成二十六年は、 青龍寺の昭和大仏建立から三十年の節目に当たり、
記念事業として大仏御宝前に護摩殿を建てる計画をしている。 毎年、 万灯会や正月の修正会の時、
昭和大仏の前で護摩を焚いているが、 これを機に、 今までの仮設の護摩壇を本格的な木造建築物に建て
替える計画をたてたので、 是非皆様のご協力をお願いしたい。
青龍寺の昭和大仏は、 全国の密門会会員や青森県遺族会、 また地元青森県の有志の方々からの寄付で建立された、
信仰の力によって造られた大仏である。 その意味でも、 青龍寺は密門会会員の心の故郷でもある。
まだお参りしていない方はこの機会に参加されることを勧めたい。 また講習会の翌日の二十八日には、
有名な弘前の桜を観に行く予定である。
さて、 密門会の布教事業として、 密門会出版部から隆弘先生や田中千秋先生の著書を出してきたが、
品切れのものもあり、 その都度、 重版したり、 改訂増補版を出してきた。 今回も
『親鸞と密教の核心』 と 『加持の力』 が品切れになったので、 版を重ねるに当たり、 前者は、
誤記誤植を訂正し註を増やし、 後者は隆弘先生がお加持の時に話した単行本未収録の法話を付け加えた増補版にした。
特に 『親鸞と密教の核心』 は、 話したものでなく、 隆弘先生が自ら筆を執って書かれたものなので、
ほかの本とは違った味わいがある。 隆弘先生は常々、 密教こそ絶対他力の易行道なりと主張されておられたが、
その実践的な要は信心にありと、 信心の大事を説かれたものなので、
真言念誦を励行されておられる会員には、 ヒントになる点が多々あると思う。 是非読んでもらいたい。
私も時々会員から、 真言念誦の時の観想はどうしたらいいのですかと聞かれる。 真剣に真言念誦される方なら、
当然持たれる疑問である。 従来の観想 「想え地輪の上に■字有り、
大海と成る海中に■字あり、
大智の火炎と成る。 火炎の中に■字有り。 八葉の蓮華と成る。 云々」 は、
インド人の感覚がかなり濃厚な表現法であり、 なかなか理解されがたい。 観想といえば会員の方には、
何か精神集中して心を一つにまとめなければ効果がないのではないかと思われるのも無理のないことである。
こういった観想は、 行者が自らの運心で観想することであると教えられてきた。
もし自由自在に観想ができるなら、 問題はないのだが、 実際問題として至難の業である。
この問題で奈良の僧侶方は非常に悩まれた。 観想がどうしても自力の観想になりがちである。
観想する自分と観想される対象が二つに分かれる。 なかなか一致しない。 一時はできてもまた離れる。
ということは、 果たして生きているうちに悟りを開けるのかということである。
今生に成仏できないなら何のための仏教かと、 大師は疑問を持たれ、 思い悩み東大寺の大仏の前で、
我に不二を示したまえと熱祷された。 この祈りが通じ、 大日経、 即ち 『大毘盧遮那成仏神変加持経』
に出遭われて初めて、 如来加持力の大きな力のお蔭ですべては動いており、
この加持力を無視しては成仏は程遠く、 奈良仏教界で三劫成仏といわれるように、
長い時間を要することになると自覚された。 如来の加持に出あわれたことが、
大師の信心を決定したといっても過言ではない。
加持は即、 如来の力、 絶対他力である。 如来の加持三昧の働きがあって即身成仏も成り立つ。
隆弘先生は著書の中で 「空海が大日経を初めて見た時の感動は、 この神変加持にあったと思うが、
後に大日経開題を著わされたことについては、
折角の三密加持速疾顕をいかにして解説して教えるかに苦心の跡が見られるようである」 とか、
「密教が絶対他力易行であると言えるのは、 此の加持の解釈のみに非ず、
行者の功徳力は曠劫の昔に如来が衆生に代わって既に実行し成就してくださったことの尊さ、
言語や動作でも表し切れず、 ただ有難く感謝の外はない、 この感謝に続いて、 大悲を信じ、
一切の罪の心身そのままをお任せし切るのが、 三密加持となるということである」 また
「正に大日如来の加持を見失っては、 十地の菩薩も全くその徳力を失うことになる。
三密瑜伽と成仏は、 『加持』 の功徳の果徳に他ならない。 行者の計らいや、
意密に観念するというも、 余教に説く観念とは別であるべきである。 凡そ密教には多くの観想が説かれるが、
その根本は大日経に在る神変加持の外はないと思う」 と述べられている。
この真言念誦の観想について、 隆弘先生はご自分の体験から、
観想として一番入りやすいのは六大を観想することにあると、 わかりやすく表現されたのが、
われわれが日常使っている 『真言念誦行次第』 の正念誦の観想の文句である。 「宇宙一切は六大なり、
我も六大なり、 六大一実の体は大日如来なり、 六大無碍の生命一杯なり、 五智の覚体は無限の大悲なり、
如来大悲の我に入り、 我大悲に包まる、 有難し有難し」 と書かれた。 これは大師の即身成仏の
「六大無碍にして常に瑜伽なり、 四種曼荼各離れず、 三密加持すれば速疾に顕わる、
重々帝網なるを即身と名づく」 の内容を簡明に説かれたものである。
自分も仏も、 森羅万象も皆六大である。 この世は、 自分も含めて、
地大・水大・火大・風大・空大・識大の六つの構成要素というか働きによってすべてが成り立っていると説く。
前五大は具体的なもので五感に触れて分かるものである。 後者の識は心・精神のように、
目には見えないがあらゆるものに遍在している。 前五大に識は溶け合っている。
また六大それぞれが融通無碍で溶け合っている。 地大の中に他の五大があるように。 密教では、
人間だけに識大があるのではない。 動物、 植物、 水、 土、 岩等、 すべてに識の働きがある。
この世には単なる物質はない、 物質にも皆識大がある、 森羅万象を生き物とみる。
般若心経に 「色即是空、 空即是色」 という言葉があるが、 この言葉は、 別の表現で六大無碍を説いている。
色は形あるもの、 感覚でわかるもので、 有限を意味し、 識 （心） は色も形もないもの、 無限を意味している。
色が即ち空ということは、 五大が即ち空である、 また空が即ち色 （五大） である。
空というのは永遠不滅の実体がないことを意味する。 実体がないということは平等ということでもある。
分け隔てがない。 形あるもの （物質） も、 形がないもの （心・識・精神） も平等である。
つまり、 心と物 （身体） は不二のものである。
心を離れた物 （身体） もなければ、 物 （身体） を離れた心もない。
この世の物質は無数の因縁によって今仮に成り立っているが、 時々刻々変化している。
因縁条件が変われば変化する。 生き物なら、 生老病死を繰り返すし、 無機物なら変化して違う形に変化していく。
この世のすべての存在は、 それ自体で成り立っているものは一つもない （諸法無我）。
お互いの関係性で成り立っている。 だから時々刻々変化していく （諸行無常）。
六大は大きく言えば宇宙も六大で成り立っているし、 小さな芥子粒でも六大で成り立っている。
もちろん人類も六大、 鳥・魚・虫・動物・山川草木・日月星辰等みなしかり。
この六大を、 人格的に象徴したのが大日如来という仏である。
サンスクリットという古代インドの言葉で表すと、 オンアビラウンケンという真言になる。
オンは帰依の意味、 ■は地大、 ■水大は、
■は火大、 ■は風大、
■は空大を表す。
識大はウンというが、 略して五大に帰依する形をとっているが、 識も当然入った意味でのオンアビラウンケンである。
我もオンアビラウンケン （六大）、 仏もオンアビラウンケン （六大） である。 六大の理は真実である。
事実であり、 理想でも奇跡でもなんでもない。 冷静にこの世の相を見つめるなら、 六大に摂まる。
六大については、 隆弘先生の著作 『密教祈祷の秘密』 や 『親鸞と密教の核心』
で詳しく書かれているので贅言は避けるが、 六大は抽象的な理念ではなく具体的な内容を持った存在である。
六大の性質、 すがた、 働き、 形・色、 言葉、 種子、 字義等内容を持っている。
例えば地大はどっしりした大地のようにあらゆるものの拠所となり、 色は大地を象徴する黄色、
性質は堅、 形は方、 種子はア字、 字義は本不生を示すというように、 たんなる抽象的な理念ではない。
この六大から、 いろんなものが生まれ、 この世を形成している。 加持力も六大から生ずる。
われわれの身体一つ見ても、 自分で作ったものは何もない。 生まれた時にすでに生命が与えられている。
生命が働いている。 規則正しい呼吸、 心臓の鼓動、 一定の体温、 血液の循環、 数々の免疫力、
それに脳・神経の働きというか、 心の働きが加わる。 どれ一つ見ても不可思議不可思議である。
わたくしの力で動いているものは一つもない。 皆、 生まれた時に与えられたものである。
しかし、 長ずるに随い自我意識が芽生え、 我執と所有欲が生まれ、 自然の命の恩恵を忘れてしまう。
自分の力で生きていると錯覚する。 如来加持力も自然の本能の働きである。
「法然加持」 （自然法爾から生じた加持） という言葉がこれを語っている。
これを忘れてしまって、 外に何か不可思議な力があり、 それを信ずることと思い込んでいる。
もうすでに、 われらの心身には三密の加持力が働いている、 「観想」 という言葉を使うなら、
この事実を信じ、 有難くいただくことが、 本当の観想ではないか。
自力であれこれイメージする観想とは違うと思う。
最後に、 もう一度 「宇宙一切は六大、 我も六大なり……」 を声を出して称えるなら、 我らの存在そのものが六大であり、
六大から生まれた加持の力をいつも蒙っていることを信ぜざるを得ないと思う。
自然の力が加持力であり、 自分が作った力ではない。
六大や自然が大日如来を示す言葉であれば、 大日如来を信ずることは六大無碍、 三密加持を信ずることである。
なにも霊的に実在する創造主たる神を信ずる必要はない。
今年は巳年というので仏教に関係のある話を捜した。
南方熊楠の 『十二支考』 を見るといろいろ出てくるが、
それよりも私の印象に深く刻み込まれている石像がある。
それは禅定に入っている釈尊を雨風から守るため、
数匹のコブラがあたかも光背のように背中から頭部にかけて覆っている仏像である。
インドならではのデザインである。 これで蛇は釈尊を守護する姿で礼拝の対象となった。
今年こそ、 風雨順次、 五穀豊穣、 世界安寧であってほしい。