密門会ホームページ

　東京は七月盆で、一足早くご先祖様をむかえたが、お盆の期間中には台風による水害や新潟大地震のニュースがとびこんできた。会員の中には被害を受けられた方もおられるかもしれません。心からお見舞い申し上げます。

　さて、今週は二つの記事に眼を奪われた。一つは、「中国産の食品や日用品から有毒物質が次々発見」であり、一つは「驚くべき史上最大の和解額、米カトリック神父の性的虐待」である。

　現在わが国が中国におされっぱなしの原因は、田中総理が世界で一番親日的な台湾を一方的に切捨て、何の理念もないまま、ただ目先の利権のために国交を結んだことにある。この結果わが国の金と技術が怒濤の如く中国に流れ、国内の中小企業は大損害を受けた。これで瀕死の中国は生き返り、日本の凋落がはじまった。中国外交の大勝利である。逆に云えば日本外交の大失敗である。そのつけが今花開いている。

　中国の製品の危険性については以前から言われてきていることだが、中国国内では報道規制が行われていて表ざたにならなかったが、海外に輸出した製品はそうはいかない。アメリカや中米で、中国産のペットフードや薬で動物は勿論人間も数百人死に、メイドイン・チャイナに対して、抗議の世論がアメリカで沸きあがり、その結果、日本でもようやく大々的に報道し始めた。ざっと報道されただけでも、有毒化学物資入り練り歯磨き、咳止め薬、残留農薬野菜。干しブドウ・しいたけ、抗性物質入りえび・うなぎ。偽ミルク、チクロ入りキムチ、鉛・カドミウム入り土鍋・おもちゃが輸出されていた。国内ではもっとひどく、偽ミネラルウオーター、偽油、水を注入した肉類、病気で死んだ豚や鶏を加工し販売していた。極め付きは、ダンボール入り肉マンである。さすが国際的にショックを与えたニュースだったので、さっそく中国政府から、あれはテレビ局のやらせだと打ち消しの報道があった。これこそ共産党のやらせであろう。なにしろ信仰、出版、言論、集会の自由がない国であれば、テレビ局なぞいつでも閉鎖される。故に、はいそうですやらせでしたという以外ない。政府に反対すれば、逮捕され刑務所に送られるだけである。もし本当にやらせだったら、責任者は死刑を免れないだろう。

　このような安全基準を無視した生産は今に始まったことではないが、日本と中国には、日中友好に水を差す報道は控えようとする暗黙の取り決めがあるらしく、北京に特派員を置けなかった産経新聞以外は事実をあまり報道してこなかった。アメリカが騒いだので言いやすくなったのかもしれない。私は中国の友人から十数年前からこれらの話を聞いていたので、スーパーでいくら安くてもうなぎやしいたけは買わないように家族のものに言って来た。香港では大陸本土からの野菜のことを毒菜と称し、数時間水に浸してから良く洗って料理するので習慣になっているそうである。

　中国語で、｢逢場作戯｣という言葉がある。その場に応じてお芝居するという意味である。本当のことを言ったら生きていけない国である。言うことと、やることと、書くことが違っても、誰も咎めない。お互いに、お芝居せざるを得ない社会であれば仕方がないと認め合っている。嘘をついても許される土壌が出来上がっている。否、嘘をついているという感覚もないと思う。賄賂にしても人情を送るという意味で、悪いことだとは思っていない。上に政策あれば、下に対策ありの国である。共産党により従来の道徳が壊されてしまったので、今はお金しか信じられるものがなくなってしまった。お金がなければ病院でも診察さえしてくれない、上から下まで拝金主義に走り、信じられるものはお金だけになっている。

　しかし、最近はそれではあまりにも虚しいというので、仏教やキリスト教、道教が復活してきている。特に法輪功という信仰団体は禁教の弾圧にも屈せず、命がけで反共運動を展開している。政治形態による組織の力というのは恐ろしいものである。なにも中国人が生まれつき偽物や毒入り食品を作り売っても恬として恥じない民族というわけではない。共産党独裁という政治システムが人民をこのような行動に奔らせている。日本人だって独裁政権になったら同じことをするかもしれない。命をかけて権力に反対できる人間は少ないし、権力はそのような人間を密告など卑劣な方法で芽のうちにつぶしていく。現に、毎年数万件のデモ、暴動が各地で起こっているが、武装警察で鎮圧されている。因みに、人民解放軍は共産党を守る軍隊であり、中国人民を守る軍隊ではない。

　さてもう一つのショッキングなニュースは、米カトリック神父たちの長年に渡る子供たちに与えた性的虐待事件である。このニュースを聞いてわが耳を疑った。詳しくは注として文末に載せるが、ロスアンゼルス大司教区の聖職者達が、五十年にわたって五百八名もの子供たちに性的虐待を続けていたとして訴えられた事件である。その訴訟の顛末は、総額六億六千万ドル（約八百億円）の和解金を被害者に支払うことで決着した。和解しないと口頭弁論で指導者が証言を求められるからである。この事件は奥が深く、聖職者による虐待の被害者は一万人を越えるといわれている。二〇〇三年ボストン大司教区でもすでに同様の事件が起きていたのである。今までも聖職者による性的犯罪は韓国や日本にもあったが、キリスト教系の新興宗教の怪しげな教祖の個人的な事件が多かったが、このたびのバチカンをトップに頂く、正統派米国カトリック教会が、組織的に五十年間の長きに渡って性的虐待を行ってきた例は常規を逸している。一部のふしだらな司祭、神父が犯した過ちというより、米国カトリック教会の体質から発しているといわれてもしかたがない被害者の数である。和解金の内二億二千七百万ドルは保険金で支払われ、後は協会の財産の売却でするというが、その財産の一部も信者たちの浄財によるものである。二重の裏切りである。金で解決するのは、いかにも訴訟王国のアメリカ的だが、本当に謝罪し償うには心から謝ることしかない。被害者の一部の人は「金は問題ではない。私にいたずらした男はまだ教会にいる」と言って、問題の根本的な解決とは認めていない。しかし、五十年もの間おさえられていたことは、教会の権威を笠に脅しがあつたとしか考えられない。もっと多くの泣き寝入りせざるを得ない人もいた筈である。

　この記事を見ていると、昨年読んだ鬼塚英昭著『天皇のロザリオ』 (成甲書房)に書かれていた、一節と、どこかで連がる部分があるのかなと感じたので紹介する。（尚、この本は日本人であるなら一読すべき本だと思う。あらゆるタブーに屈せず命をかけて真実を描いた勇気ある書である。）

　一五四九年、日本をキリスト教の植民地にしようと、ザヴィエルを中心にイエズス会が布教に来たが、その時の布教の切り札は火薬であった。種子島に鉄砲がもたらされてから、短期間に日本人は鉄砲を作った。各大名が求めたので鉄砲の数は瞬く間に増えた。しかし、鉄砲は作れるが、火薬は作れない。なぜなら火薬の原料の大部分を占める硝石が日本ではまったく取れないからである。故に各大名はポルトガル商人、特に宣教師に火薬をもとめた。大友宗麟や有馬晴信、大村純忠等、次々にキリシタン大名が生まれるが、最初、彼らの目的は信仰より火薬の入手であった。そこに付け込んだのが宣教師たちである。ザヴィエルと親しい大友宗麟は、領内の神社仏閣、特に宇佐八幡宮、彦山の坊舎三千坊を焼き、神官・僧侶を焼き殺し、領内でのキリスト教の布教を許した。その報酬として、イエズス会は宗麟の武器援助独占の要請に応えた。当時、火薬一樽と五十人の少女が交換されたという。その仲介をしたのがイエズス会の宣教師たちである。その有様を、徳富蘇峰の『近世日本国民史』初版（二版では憲兵命令で削除される）に、

　「キリシタン大名、小名、豪族たちが、火薬が欲しいばかりに女たちを南蛮船に運び、獣のごとく縛って船内に押し込むゆえに、女たちは泣け叫び、わめくさま地獄の如し。」

　また、山田盟子著『ウサギたちが渡った断魂橋』では、キリシタン大名の大友、有馬の甥たちが天正少年使節としてローマ法王のもとに行ったが、その時の報告書を紹介している。

　「行く先々で日本女性がどこまでいってもたくさん目につく。ヨーロッパ各地で五十万という。肌白くみめよき日本の娘たちが秘所まるだしにつながれ、もてあそばれ、奴隷らの国にまで転売されるのを正視できない。鉄の枷をはめられ、同国人をかかる遠い地に売り払う徒への憤りも、もともとなれど、白人文明でありながら、何故同じ人間を奴隷にいたす。ポルトガル人の教会や師父が硝石(火薬の原料)と交換し、インドやアフリカまで売っている。」

　また同書で、

　「ジパングは火薬一樽と交換に五十人の奴隷(色白くみめよき日本娘をさす)を差し出します。神の名において日本を領有すれば、献金額を増すことができるでしょう。」

　鬼塚英昭氏は
　「この少年（天正遣欧使）たちの父や叔父たちが、ポルトガルの教会の師父たちと共謀して日本女性を数十万単位で売った悪なのである。ポルトガルの教会の師父が世界的売春組織のボスであることを知って、キリスト教の何たるかを連想されるがよい。」

と述べている。

　以上の資料は、以前から分かっているもので珍しいものではないが、従来の歴史家や遠藤周作たちは、なぜキリシタンが弾圧されたか、故意なのか、不勉強なのか、一切書いていない。逆に二十六聖人等の殉教だけを取り上げ、罪もないキリシタンが理不尽に弾圧されたと被害者の立場のみ強調する、『沈黙』がいい例である。同じ題材を扱った小説では、竹山道雄の『短い命』がある。この方がよほど深い内容であると思う。秀吉は、イエズス会日本征服の策謀を見抜き、イエズス会の代表コヨエリに対し、五箇条の質問状をたたきつける。

一、なにゆえに秀吉の臣下をキリ　シタンにしたか
二、なにゆえに宣教師は教徒（キ　リシタン大名）に神社仏閣を破　壊させたか
三、なにゆえに仏教の僧侶を迫害　するのか
四、なにゆえにお前たちは耕作に　必要な牛も屠殺して食用にする　のか
五、なにゆえにお前はお前の国民　が日本人を購入し、奴隷として　インドに輸出するのを容認する　のか

　日本人にすれば当然のことである。キリスト教徒の信仰から言うと、異教徒はもはや人間ではないのである。だから平気で奴隷として売買するのだろうか。当時の為政者としては、キリスト教に国を売り渡すわけには行かない。当然の禁教政策であった。

　今月は、新聞の二つの記事から、人間の業というか、煩悩のなせる業をまざまざと見せつけられた。前者からは、金儲けのためなら手段を選ばないあくどさを、後者からは、キリスト教聖職者の人間を人間として見ない偽善、虚偽、責任逃れを。

　これらのことから、十善戒の持つ重みを改めて知らされた。上記の事例は、まさに不殺生戒、不偸盗戒、不邪淫戒、不妄語戒、不慳貪戒、不邪見戒に反した行為であるからである。人間である以上過ちは犯す。しかし、自分の罪を自覚したなら素直に懺悔すべきである。残念ながら、両者とも本当に謝罪しているか疑問である。

　仏教では、この世のことを娑婆世界という。煩悩を持っている者同士が寄り集まって生きている世界である。当然互いの欲望がぶつかりあい思い通りに行かない世界である。だから今回のような事件が起こり得る。しかし、お互いに最低のルールは守らないと混乱を招き無政府状態になる。このルールが仏教で言えば十善戒であろう。いかに娑婆世界とはいえ、やってはいけないことがある。各自が十善戒を生活の規範にするなら、この世もまんざら捨てたものではない。娑婆を忍土とも訳す。この世は忍耐する場所であると思えば、娑婆だから悪さをしてもしょうがないと悪悟りするより、自分の弱さを知りつつ、積極的に娑婆を浄土に近づけるためには忍耐しようという気持ちがわいて来る。仏教を虚無的だとキリスト教徒は批判するが、己が置かれている虚無を自覚せずして虚無を克服することはできない。われらは、独で生まれ、独で死んでいく、諸行無常の存在である。自分の弱さを自覚せずして無限の虚無を超えることはできない。本当はみんな孤独である。洗礼を受けたら必ずみんなお手つないでパラダイスに行けるのではない。われわれは一人一人違う環境に生きているのである。一歩間違うと何をしでかすか分からない。だから十善戒が指南となる。

聖徳太子は、この世は「世間虚仮( せけんこけ)、唯仏是真(ゆいぶつぜしん )」と喝破された。この世はすべて虚妄で仮の姿であり、仏の教えのみ真実であるという意味である。一見虚無的であるが、虚仮だから仕方がないし諦めよと言っている訳ではない。真実の仏法に照らされているからこそ、この娑婆世界の真実の相が見えるのである。虚仮という現実が分かるという事そのものが、嘘偽りのない真実の光がわれを照らしている証左である。「娑婆即寂光土」というのはこの事を言っているのであろう。われらがいかにこの世を厭おうとも、この娑婆世界を離れて浄土はないというのが仏教の教えである。浄土はこの世を超えたあの世に有るのではない。浄土とは、理想や観念の世界ではない。この娑婆世界を照らす鏡である。煩悩があってもそれを優しく包んで超えていく世界である。煩悩に即して菩提を証す道である。

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※〔注〕
米カトリック教会のロサンゼルス大司教区のマホーニー司教
【ロサンゼルス＝松尾理也】米カトリック教会のロサンゼルス大司教区の聖職者が、数十年にわたり子供たちに性的虐待を続けていたとして訴えられていた訴訟は１６日、大司教区が事実を認め、総額６億６０００万ドル（約８００億円）を被害者に支払うことで、ロサンゼルス上級裁判所で最終的な和解に達した。だが、原告からは「虐待を行った聖職者はまだ教会に残っている」などと批判もあがり、むしろ和解で全容解明が遠のいたとの批判すら出ている。

　ロイター通信によると、原告は５０８人に達し、中には１９４０年代に虐待を受けた被害者も含まれる。ロサンゼルス大司教区は、全米で相次いだカトリック教会での性的虐待事件の和解額としては過去最高となる６億６０００万ドルを支払うとともに、これまで公表を拒んできた虐待に関する内部資料を公表する。

　今回の訴訟は１６日から口頭弁論が始まる予定だった。開始されれば、同大司教区の指導者で全米的なカトリック指導者であるマホーニー司教が証言を求められると予想されていた。８５年から同大司教区のトップの座にあるマホーニー司教は、これまで原告から虐待の事実を隠蔽（いんぺい）しようとしたなどと批判されており、証言台に立たされることによって真実が明らかになるとの期待もあった。しかし今回の和解で、同司教はぎりぎりのところで証言を免れた。

　マホーニー司教は「二度とこうしたことが起きないよう約束する」と謝罪したが、８歳から１１歳までの間、虐待を受けた女性（４８）はロイター通信に対し、「金は問題ではない。私にいたずらをした男はまだ教会にいる」と不信感をあらわにしている。

　聖職者が独身を通すことを義務づけられているカトリック教会をめぐっては、２０００年ごろから米国や欧州の各地で虐待の事実が次々と発覚。０４年に米国で公表された報告書によると、１９５０年から２００２年までに起きた虐待について、聖職者の告発に踏み切った被害者は１万人以上に上っている。

　同様の性的虐待の事実が判明したボストン大司教区は０３年、約５５０人の被害者と８５００万ドルで和解に達しているが、今回、カリフォルニア州では特別に時効の消滅が認められたため、それをはるかに上回る史上最大規模の和解額となった。
（「産経新聞」平成十九・七・十八）