仏教の教えには虚構は許されません。信仰で救われるという目的がありながら、実際に救われなければ、感謝の念は湧きません。けれども、仏教以外の神々の信仰、或いは昔から行われている神霊の信仰は、それぞれ求める祈願によって御利益を期待するのですが、その代償として献金や財物の奉納があり、それによって神々にその成就を求めるのであります。心に神霊の御心を引き付けるように祈り、その代償を実行すること。そしてそれに相応する額を捧げるべく指導されます。こうした信仰者が多く続けば、その宗教は維持され発展します。仏教以外の宗教は、このように俗欲の願成就を言うので、従って願望のお蔭が頂けない人は、結局この神様は御利益が薄いと考えがちになるのが実態です。
吾が真言宗易行派による救いは、御仏即ち御本尊大日如来自ら、または諸仏菩薩の御徳を以て、御仏の方から既に与えられていることを悟らねばなりません。衆生が諸願を立てる前に、御仏からの大慈悲を頂いていることは、仏像を以て表現しておるのです。
そこで教師たる僧、または居師の縁が大切になります。真言宗易行道で、御真言を唱え、お経を読誦することは、感謝の心で行うことになるのです。真言を念誦して、頼む頼むという心境はよく分かりますが、自分に相応する自然な願いの成就は、求めなくとも既に与えられていることに気付かずに、単に運が好かったとか、自分の努力で成功したものだと考える人は多いのですが、真実心から反省して、感謝の心の湧く人は少ないのです。これが逆に不運続きとなると、何か障りがあるのではないか、因縁が悪いのではないかと考え、その悪因縁を切るよう務める人もありますが、これに対して私は常に注意をしてきました。そういう人は、先祖の中に悲運の悲惨な死を遂げた霊や不成仏霊があって、助けて貰うために子孫に障っているという話に迷い込むのであります。密門会の名称で発足して以来、今日に及ぶまで一貫して提唱して来たのは、このような因縁説は迷信であるということで、これは会員各位のよく御承知のところでしょう。それなのに、「あ、分かった」と会報も開かずにいたり、難病が折角治っても、喉元過ぐれば何とやら、全くに忘れ去ってしまう会員もいるのです。
これは、癌と診断されて驚いて来訪し、或いは電話で依頼するのに、本人の場合は甚だ少なく、家族が代理人であることが多いからです。癌というと悲嘆して一層気落ちして、病が悪化し、神経が弱くなっているから、秘密にする人が十人中八人以上いるのです。古参会員は今迄のお蔭の素晴らしいことを知っていますから、初めから病名を語って心を正して依頼します。本人も一心になるからお蔭を頂くのも速い訳です。余りに速いと、癌ではなかったのではないかという疑いさえ起ることがあるようです。はっと忘恩業に思い至って感謝の心に立返り、永年再発の心配もなく過ごしておる方もあります。
病名は本人に必ず告知すべきです。と言うのは、自分では癌だと思わないので、元気になると養生を怠たり不信心になり、忘恩業を造りますから、仏教徒という尊い資格が欠落して、社会人としての倫理道徳さえも忘れる不当な人格の持ち主と見られるからです。そればかりでなく、仏法守護の諸天善神から見放され。損失を招くことは目に見えております。このようなことは、精神世界の自然な法則であり、善因善果、悪因悪果の現証を悟らなければなりません。
私は、この不信仰時代に二十年間、教えの実践に努めて、癌や諸の難病から三百人の生命を助けて来ました。してみれば、救われた人達が、他人様の苦しみを救うために一言自分も癌に悩んだ生命が速く救われたことを話すのに、何の困難があるでしょうか。決して損なことではなく、これが功徳になる最短距離の行ないであります。
真言易行道は、いよいよ米国にもその教えの不思議さが知られつつあります。正しい仏教が現実に示す不思議力は、科学時代の今日、堂々と識者に理解される時に入りました。幸いに青龍寺金堂は、この教団の洋々たる将来を展望しておられて御本尊と諸天善神を供養しようという、精一杯の御協力の結果によって成ったものであります。また自分は既に御利益を頂いたのに、それを悩む人に語って入信に導くこともなく、従って故人となった有縁無縁の人々の死を聞き、反省のなかったこと、要するに折角語れば救われた人が死ぬのを傍観したこと、これは仏教徒として讃められることではないと思わないでしょうか。語り教えても信じない人は、臨終になると必ず、あの時信じればよかったと悔いる筈です。吾宗の尊いこの実績を改めて反省して、自分が奉献した感謝の碑が建つことで、将来にわたって無限に感化を与える、尊く素晴らしい功徳行を成すことの出来る幸運を知って下さい。今回の聖業を行う吾が教団を改めて認識して下さい。大仏さまに献金した人々は、定めし快心の思いでしょう。自分の志が、永代に拝まれる大仏さまとなり、将来は国宝指定になるのです。金堂もそうです。今都合のつかない方は、分納でも後払いでもよいのです。五万円は節約して成せる額であり、これによって万倍の徳が生まれるのです。
ここで大切なことは、本人にその心がなくても、代理で申込んだ方は，代って奉献することが、本人と代理人の功徳になるということです。諸天善神はその尊い行為を必ず照覧しておられます。拙著、特に今回の『如来の不思議』で紹介された方は特にです。
因果の法則は釈尊の発見された実相であり、決して制定されたものではありません。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の如く、信者の運、不運は神の絶対権によるとする教えと意味が異なります。彼等の教会で献金は、平素から義務とされていることを思う時、仏教徒の身上はまことに有難い救いであると言わねばなりません。尊い自己を難病から救って下さったことに対する感謝の気持は悉く仏像や金堂に変じたことに誇りを持ち、そこに結縁した喜びを忘れたくないものです。