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政治の根底に仏教を
平成3年12月
織田隆弘
 日本の政治を綺麗にするために、政治改革が言われますが、これは大きな誤りであり、期待出来ないことです。政治家と云えど皆国民であります。政治家は国民と違うものではない。弁が達者で、意志が強い人間、発表力の強い人が政治家として選ばれていくのです。そこでは倫理道徳というものが大切であって、善悪の区別のつかないような人間は選出してはならないのです。そういう人間を選ぶのは選挙民の過ちであります。その意味で政治家は半分より罪がないと言えましょう。少なくとも金によって選挙をするという考えは、世界中、大なり小なり行われておるようです。それで日本の政治には金は要らないんだというようなことになると、それこそ日本は世界から讃えられるところの政治形態になると思います。

 それには教育からやり直さなければならない。教育で、倫理道徳というものをもっと徹底して教えることです。さらにそれを破る者は、決して幸せにはならないという、仏教の業論を教えていかなければならないと思います。

 こういうと日本人は笑うかも知れないが、西洋人は未だに宇宙を創造した神様が在る、人間を創造した神様が在るのだ、そうして人間が死ぬと霊魂が残るのだと信じています。また、その神の教えを信じる者は神の愛を受けてそれを更に弘める為、異教徒を改宗させねばならないんだという、徹底した教条を信じているのです。

 ところが仏教徒はまことに心広く、たとえ異教徒であっても、不幸になった場合にはお葬式にも行くし、礼儀に対しても敬意を表します。交際の幅が広い。日本に来ている外人は、非常に驚きの目でこれを見ております。これは日本人の心の広さを示すものでしょう。

 事は小さな問題なようでありますけれども、誤った宗教ほど恐ろしいものはありません。先の湾岸戦争によってこのことが証明されました。もうこれで終わったと思ったところが、まだイスラエルの問題がありました。と同時に、パレスチナ人の問題があります。ひとつの民族が、自分たちの祖国に住むことが出来ないので、追われたままでいるという事実があります。その後遺症がいま論じられていますが、いわゆる中東平和のためには心の本当の立て直しが必要となります。世界の宗教の中で、一番信者数が大きいのはイスラム教のようであります。次にキリスト教であり、また仏教でありますけれども、仏教はまことにおとなしいのです。あまり無理なことをしないので、無力であって、そのために宗教には力がないが如くに考えられておりますが、共産化されて悩んだビルマにしても、ベトナムにしても、結局また仏教が復活してきました。

 こうして宗教の流れというものは、よく考えてみると、神が人を救うというのですが、逆にまた神があるがために長い間人類が戦争し、悲惨な争いが続いているという面も考えられるわけです。ここで漸く仏教の及ぼす良い影響、東洋の国民生活が見直されるようになりました。

 平和を愛するから、無理なやり方をしないできた。それは西洋人から見たら、力の無い、無能なものに映るか知らないけれども、精神の世界を尊重して、忍耐をもって生活してきたのです。時が来れば必ず、正しいもののための時代が来るんだという、因果の理法を信じているわけです。

 そこで私は、今までの仏教は心にのみ偏りすぎて、密教で言う「物心不二」を無視してきたことを改めて指摘したいのです。これは即ち釈尊の発見した真理の世界であります。日本は明治維新後に西洋文化を取り入れたために、物質の面では大いに成果が上がりました。ところがその反面、仏教を捨ててしまったので、日本人がそれまで信じ、伝えた国民道徳の基本が無くなったのです。

 迷信から離れるところの真実の救いというものに希望を持たせるためには学校教育がこれを用いなければなりません。日本思想史という科目を作ればなんでもないことですが、どうしたものか今までの自民党政府はこれをやろうとしません。官僚にしても同様です。近頃は心の世界ということを考えるようになって、テレビ、新聞でも宗教を復活させようという論調にもなりつつありますけれども、教義にまでは、なかなか触れることがないようです。ただ文化財に終わっています。確かに文化財という点で生きているのですが、しかし、やはり人間が本当に仏教というものを咀嚼するならば、もっとよい文化財になる筈です。

 我が国は、なるほど物質文明では世界有数の恵まれた過ぎた社会でしょうが、精神文化の面に於いては、世界から笑われるような現状であります。だからこれを立て直すことが、新しい政治の根本課題だと思います。それには国民がもっと目覚めて、いったい自分たちは仏教国に生まれたけれども、仏教とは何かが分からないと素直に言うことです。ただ死ねば極楽に行くとか、死ねば霊魂になって、まだ生きているものと交流するのだというぐらいにしか考えていないのではないでしょうか。その霊魂に物を頼めば、幸福が来るのだと考えている人間の馬鹿らしさ。神に頼めば幸せが貰えるのだ、だから少々怠けても信仰した方が得である、神に対して、いわゆる供物、“賄賂”を捧げれば神はよくしてくれるのだというのでしょう。これは心から教えの真理性に感謝して捧げる供養とは違います。現代は宗教産業が上手に偽なるものを真と考えさせ、邪なるものを正と考えさせています。それは学校教育で宗教を教えないからです。皆、素人が勝手に作った仏教です。勝手に仏教語を使って、利益を鼻先に見せて、欲の心に油を注ぐ、そうすると、その欲を成就するためにその新宗教団体に入っていくというような状態です。このままで行ったら、日本は世界から最も軽蔑される民族とされるでしょう。

 今の人は、仏教は何かということを、一切知らないようです。まず国民がこれを習うことです。政治家も率先して仏教を正解することによって、自分の政治生命を維持することが出來、不浄な金を使わなくても選出されることになるわけであります。むしろ金が無いのが誇りになるぐらいの候補者が出てもよいのではないでしょうか。それには清廉潔白な人柄というものが元であるのは当然ですが、さらにその上に密教の理念を持ったならば、精神の世界と物の文化の世界と、車の車輪の如く、必要であるということを説くことができるわけであり、またそうならねばならないと思うのです。日本人だけ幸せになる、それは間違いである。みな人類は幸せでなければならないのです。