大日如来の、われわれに対する誓願があることを心から感謝する。
「われはすでに汝らを加持している。成仏するように加持している。」
そのことをわれわれが信じて、あらためて感謝する。
無明の雲に隠れて、われわれの智慧で、自分だけ生きている、自分がああこうして生きるんだ、
さまざまなことがある世の中は、思うようにならない、不幸が来る、心配事が来る、
それに自分は対処して、堕ちないように注意して、よく働き、生活を維持する。
或は、さまざまな事業で、期待を多くして努力しているのである。
だが、如何に自分がよい企画をたて、よき協力者があっても、健康を失えば、まったく水の泡である。
財の欲というものは、執着を強くして、悩みが多い。この執着の心を、煩悩とはいうものの、
正しく仏様の心に向けると、苦は楽になる。災いは転じて楽となる。
わが一生はこの肉体の終わりを以って、期限とするのではない。
過去から輪廻しながら、現在この世に生まれて、生かしていただいている。
諸々の御縁をいただいて、今日の喜び保ってきた。
根本には大日如来様の無限の過去から無限の未来に続く不死の命を頂戴して、
しかもそれは皆平等にいただいているんだということを悟らねばならない。
こう教えていることを、あらためて悟るということでなしに、信ずることが、いわゆる悟りなのであります。
間違ったことを信じては、それは迷いである。真実ということを信じれば、それは悟りと同じことである。
易行の道というものは、特に自分が汗をかかなくても、さまざまな苦行で日数を経なくても、
信じることによって、今すぐに気が楽になる。一人間が考えた約束事ではない。
この宇宙と共に刻刻生命を輝かしておる。その同じ宇宙の光と恵みを同時に大悲として、
われわれに与えられて、教えられている。それを大日如来様として、無限の比較の出来ない、
根底の、大きな仏様の慈悲を信じるということであります。
ある人間の策定したことを信じよというのではない。有史以来多くの人間は一生懸命、
いったい自分というものは何だろうか、真の生命というのは何なんだろうかということを探求し、求めて来た。
その苦を解脱する。苦を脱するということを、解脱という言葉を用いる。
或は最後に命終した時にはこれは涅槃とするのであります。
涅槃とは苦の無い、本当の無憂の世界である。無憂のままにわれわれは死ぬことができ、
静穏にして徳高き心は、次の生に業として続くのであります。
この業の不滅というものは、仏教のみ説くところの、真実の教えである。
それは禅定の徳によって始めてわれわれ人間共に明かされた。
ただ一人、この地球に生まれたお釈迦様のお蔭である。そんじょそこらの神様とは違う。
或いはこの間までいろいろ仕事をしておったものが、急に聖者の真似をして、教えを開いたのとも違う。
なんとしても、真実ということを求めていくならば、お釈迦様が発見された、この宇宙は、
無限の過去から、無限に将来、生かされている。生かして下さる。すべてのものを生かしながら、
変化しながら、変化しながら、万有の生命をそれぞれの分によって、生かして下さる生命である。
ただ物を成長させるのではない。最も貴重なのは、われわれに「こころ」というものがあることを教えてくれた。
「こころ」というものは識という文字を書く。識によって初めて智慧となる。
心識ともいい、不滅の命の流れとなるのであります。その識が働いて、知識によっていろいろ発明されて、
物も理をよく発見して組み立てて行くのが、一切の産業である。
学問、産業はみな、智慧なくして物は生まれない。発明という言葉があります。
この発明は何によって生まれるか。即ち生命と共に識があるからであります。
識の無いものから、新しい創造は出ない。けれども、有り難くも、宇宙に存在する物は皆、
物と識とが一体になって流れておる。これを真実の根本理という。これを信じないで来たのが、世間の法である。
仏教外の教えは、識ということを知らない。感覚は知っておる。感覚と本当の識とは違う。
感覚というものは、熱い、寒い、苦い、うまい、見える、見えない、快い…、これは五感の働き。
五感の働きも、識によって、生かされ、よく分かる。分別出来るわけであります。
それよりも根本の識というものが、すべての生き物がいただいておる平等な識であり、平等な命であります。
如来様は三世の衆生は皆我が子なり、一切衆生は我が子なり、我が子と同じ仏の所有だと、
こうおっしゃった。われわれは、その法施を有り難く、自分のようなものでも仏様の子である、
仏様の身であったのか、ということを感激して、いただく。そこに、仏様に恥じない生活をする。
恥じない行為をするという、その根本戒は十善戒となって、教えられておる。
十善戒の無い世界には、やはり不安が常につきまとう。如何に理想社会であるものが繁栄しても、
十善戒の無い世界は地獄であり、修羅の世界、餓鬼の世界、今華やかに見える、
物の世界の発展があっても、いわゆる感謝と施しと供養の心がなければ、畜生に劣るものである。
人間は、頭が良いばかりが人間ではない。最も良い頭は感謝と供養と奉仕の精神が、
値打ちがあるのであります。動物の本能の力を人間と比較したならば、
一つ一つの本能は動物に劣るのが人間である。幸いに人間は総合して円満な知識を持って、
さらに掘り出すことによって、無限の宝が創造されるのであります。創作ともいう。
けれどもその場合の創作というものは、皆仏様のお体の上のことであって、
人間が自慢の出来るものは、一つもない。本来授かっているものを、われわれが、
いただいた智慧によって工夫することである。出来た物に感謝し、自分のような至らないものでも、
なせばなるんだなあという、いわゆる努力の、知識を磨くことによって、
予期しないものが新しく誕生するのであります。精進努力という言葉をもって教えられておる。
十善戒とともに六つの努力があって、いよいよ世の中は立派になり、
互いに生きがいを一層位深くしていく世の中が出来るのですけれど、この六つの菩薩の行が、
今の社会には無い。毎日の新聞は誠に困った問題ばかり突き当たっておる。
もしここに菩薩の六度の教え、布施の心、戒めの心、忍耐の心、精進努力の心、落ち着きの心、
智慧を磨く心があり、しかもそれは仏様からいただいた智慧であり努力ということだが、
それが分かれば仏様の世界に努力する智慧になり努力になるということであります。
仏と関係の無い智慧は、人を苦しめ、われも苦しめる。凡聖不二とはいいながら、
根本にたちかえって、初めて凡聖不二という、凡夫と、聖なる識、仏様と、平等だということが、
仏様の本当のお心にかえって言えるのであります。
迷いの世界においては凡聖不二という。平等といっても、順序を考えないで味噌もくそも一緒にするから、
世の中の秩序が保てない。長上に礼をし、親に孝、先人先輩に会釈する感謝の気持ち、
教えてもらうという心があって初めて、ものが和やかになる。
教育が涸れて、何を以って親が期待するでしょうか。
みな養老院行きの仕事以外は無いような感じがして嘆かわしい。
出来るだけこの誤りをなくして、仏教の真実をいただいている心、
平等にいただいている心を知る。それは感謝をもって受けること。
この心を維持するところに、この世そのままに浄土が開けるわけであります。
そこには、病もいつかは消え、身心爽やか。正しい生活法にまた心を集めて、
健康道に勤しむのが人間生活であります。