現代科学で最高の療法をしても効かない病気があること、
さらに薬物の副作用による被害の甚大なことは医師自身がよく知るところでしょう。
また、宗教家が自らの病む原因を知らず、仏教によって教えられる場合もあります。
このことは、仏教者自身も存外知らない世界があることを教えてくれます。
元々僧侶は、仏教の目的たる悟りに至れば、もはや煩悩がないから娑婆のことは知る必要もないと考えがちですが、
これは誤りで人の悩みを救うには必要なことです。
仏教では、心の外に実在する仏を認めません。鬼魔も無いものと考えることが多いのです。
しかし鬼魔は心の悪を表現したものであるとのみ解釈されているのは誤りです。
仏教経論には薬叉を説きますが、
これは訳して鬼神
とも呼ばれます。これは、微細身で化生の存在です。
大別して、善鬼と悪鬼としますが、さまざまな存在があります。
要するに神霊の種類のことで、立派に仏の教えを奉じた天神から、下には悪鬼邪霊までたくさん存在しているのです。
餓鬼のことはよく知られているでしょう。この鬼神衆の中で下等な悪鬼は、人間の身体に魅入ったり、
外から作用したります。迷信に熱を入れたり、無いものを有りと妄見する人に憑き易いのです。
したがって、等しく宗教と言っても、智の宗教と言われる正統仏教、正純密教を信ずる人には、
鬼神がつくことはなく、仮に善神の守護はあっても、悪鬼に障碍されることはありません。
もちろん、宿業の徳のある人にも悪鬼神は入りません。
ところが、邪教を盲信して熱心になる者、そして薄徳の者には早く憑く現象が多いようです。
一例を挙げましょう。AとBは一緒に邪教に入信した仲間です。でもAは間もなく、
この信仰はおかしいと気が付いたので、魔の障りらしきものも起こらず、早いうちに脱会してしまいました。
ところが友人のBは、邪教を信じて、欲得づくの期待感から夢中で信仰したのですが、
熱心になればなる程、不思議な霊的現象が現われます。素人は、これを良い知らせだと誤解し、
これこそ神霊のお蔭だという妄信が深まります。
教団内でも、そのような似た者同士は気が合うことになりますから、
相互にますます欲望成就の期待が深まります。また、教団の巧みな指導によって、疑うことがないばかりか、
教団主を救世主の如く思い、生き神や生き仏の如く信じ込んで、
何とありがたい教えかと、迷いは深まるばかりです。
これら迷信の多くは、人は死後にも霊魂となって現実世界と交信できると信じさせるようです。
この霊魂は、吉凶禍福の原因とも説かれます。こうした盲信、迷信が深くなると、鬼神の霊が、
魔力を以て、神や仏の姿を現出させるのです。そのような状態になるころには、
すでに常識が欠けておりますから、家人や周囲の者が不審に思って、注意したり反論したり、
仏の正しい教えを聞かせると、やっと目が醒めることになるのですが、
それはまだ良い方で、醒めない人も多いのです。脱会すると罰が当たると恐れる人々です。
仏教では、仏様のお告げと称するものを言ったり霊能者になったりすることは絶対に認めません。
それは魔の所現です。仏や菩薩や古い何年も前の人の霊を見るということも認めません。
インチキ師の言葉にすぎません。実際に見ているとすれば、
それは鬼神の憑依した現象です。
鬼神の中には、智的魔力の強い者もありますから、仏教者でも真実を悟った人でなければ、
鬼神の魔性を見破れないで、却って仏教を正しく把握したものと誤信することがあります。
このことは再三経典で注意しております。事実、日本の仏教界でも、特に密教系と法華系の行者は、
このようなことがあるようです。まして、全く仏教を知らない人、素人と言ってもいい人は正しい仏教、
正しい密教と言っても、判別力はありませんので、耳よりな話、有利な話を信じ易いのです。
殊に仏教は、欲願を否定さえするのですから、密教が欲を成就させると言っても、
その欲の内容が異なることを知りませんから、個人の欲はきっと叶うと信じて、迷路に入ってしまうのです。
信じても、願望の叶う立派な行ないは稀有なことで、却って落ち込む人が多いのです。
入信して始めは希望に燃えた顔色が、日数を重ねるにつれてだんだん悪くなり、
疑心と暗い感じが現われるようになります。教団に差し出す金も続かず脱会する者が多くなります。
いつまでも残る者は、人が変ったようになり、常識が欠けて、家族親類の憂いの対象となります。
家財は減り、友人と和が持てなくなり、不運が続き、孤独になり、親子さえ別れ、夫婦も離婚同様になって、
社会問題にさえなってしまいます。そうなると、いよいよ頑固になり、あたら青春時代を失ってしまうのです。
このようなことは、仏教系の新宗教にもありますが、○○○○○、
○○○○から生ずるほどの極端な現象は少ないようです。
密教系の修験道、本山醍醐派の系列教団、霊能者、日蓮行者の説く病気の原因は、
先祖の霊が迷っているからというのです。だから供養しろと言います。
その他、地縛霊がある、或いは家の方位が悪い、墓相が悪いから病気になる、
病気や薬などの医療では治らないと迷わす点は、共通しているようです。
このような理屈は、素人には本来証明のしようのないことですが、霊的現象という、
鬼神魔霊が先祖の霊であるが如く見せる所作を霊魂存在の証しとするのが、霊媒者の答えです。
これは素人に正しい判断力が無いのを狙ってのことなのです。
更に、その邪教の教主は、世にも珍しい超能力者で、三世を見透す霊眼の持主であるとして、
幹部が霊験を取次ぎ語ることによって、素人を迷わせ、誘い込むこともあるのです。こうして、
霊障を払うとか、除霊するとか、成仏させると言って、怪しげな宗教的行為が行われます。
このような非真実教の存在は、世界各国に行われて、信教の自由を謳歌しているようです。
要するに、神の実在は、霊魂の実在、精霊の実在を信じる者の中にある現象であります。
これはまた幻聴、幻覚症状の原因にもなります。
仏教では、全知全能の宇宙創造神を認めません。神霊は認めますが、
それも不滅の阿頼耶識を不滅の生命とするのです。
ただ、真実を説き、止悪修善の外は求めないのです。
しかし残念ながら、仏教の中でも現世利益を説く、密教に寄生した雑部の密教は、非仏説を教義の中に入れて、
さも心外に仏や霊魂がある如く説き、曰くありげな雑多な方法等を用いますから、素人は妄信してしまいます。
奇跡を行うと称して、物理的作用を利用して、さも神秘力があるが如く誤信せしめることもあります。
迷妄者の心理は、鬼魔の類が作用したものです。それで、身を悩ますのは鬼と呼び、
心を悩ますものを神と呼ぶと、経典にあります。したがって、このような原因を持つ病人は、
如何に薬や物理療法を用いても治すことはできません。貪、瞋、痴の三毒を原因とするものについては、
顕教の僧侶にはほとんど認識されません。彼等はただ葬式法事即ち宗教儀式を主とするのみで、
現身の苦悩苦痛を救う考えがないためです。
この意味で密教僧は真心からなる加持法を以て大衆救済に日々努力すべきです。
経典に明示されていることは体験によって実証されるのであります。
以上のような迷信は、医療の進歩を過信した期待が外れた結果、霊的なものを求めるのが最大の原因です。
人は、何事も希望通り幸せになり、常に健康で、病気で死ぬことは避けたいのです。
しかし唯物思想に重きを置きますと、仏教者であっても、
物質と心が一体になっている生命を深く極めていないから、
正信迷信の区別さえできないのです。