現代の宗教界では真言宗醍醐派の恵印部山伏修験道は密教として分類されています。
果たしてそれでよいものでしょうか。役の行者を開祖とする現世利益中心の祈りは、仙道、霊魂説、
道教を取り入れた鬼神の信仰、星占い、方位方角、日の吉凶等によって、人間の幸不幸、幸運不運等、
一切が左右されるが如き誤解を招いています。特に、先祖の犯した因縁が子孫に及ぼす悪い影響を、除霊、
又は不成仏霊を成仏させることによって除く、或いは神の位を授けて昇格させるとか、
素人には反論しようもない妄説を、甘い言葉や脅迫めいた物言いで、
さも真言秘密の法であるかの如く思わせることが多いようです。
このような“真言密教”は因縁切りの教えだと宣伝されるために、信者勧誘の為、疑似仏教は勿論のこと、
神道系宗教や近頃はキリスト教系の新教団まで因縁論を唱え、印刷物を無料配布しています。
また仏陀、釈迦牟尼が印度に誕生されたことにかこつけて、
ヨガ行に味付けして金のある日本人が仏教の教理に暗いことを好餌にして、文書伝道しておる者もあり、
頭の変なのが、釈尊の姿に似せて、沙門の如き衣服で堂々と寺院にまで訪問して来ます。
私が頭から、その迷信邪説であることを諭したところ、早々に退去したことがありました。
さて疑似仏教の創始者には当然のことながら、仏教の一大条件とする菩提心はありません。
その説くところは、悟りらしきものは片鱗もないのです。
その多くに共通するものは、人の幸不幸の原因は前述の如き悪霊の障り、先祖の因縁にあるとするところです。
加えて最近は、守護霊とか水子供養等があります。山伏修験道の既成寺院においても、
人を惑わす行事が多いと言われております。正統派の真言宗では、高野山真言宗、東寺、
智積院を本山とする智山派、長谷寺を本山とする豊山派があり、その他、仁和寺、大覚寺、勧修寺、泉涌寺、
善通寺もあるのですが、この疑似密教が行者僧の中で盛んに用いられるのは、
空海即ち弘法大師入定後に生まれた修験道という継子が成長したものなのです。
こうして、日本中が、真言宗と言えば、修験の仏教だと誤解するに至ったものです。
大師の教えからすれば、甚だしき邪説邪行だといえます。
何故にこの邪法が用いられるのかを考えてみましょう。世界各国、人類が未開時代から考えたのは、
人の死後に霊魂ありということです。自然現象にしても、科学知識の乏しい時代は、風、雷、日食、月食、地震、
疾病等を神の怒りと考え、或いは暗闇の錯覚で瓜が人の顔に見えたり、雲の流れ、変化の中に、龍の形を見たりして、
これに心霊をこじつけたりして、数千年の時の流れは、人々に同じことを言わせ、聞かれて、
ついに霊魂存在という強いものになりました。
また人の死後、中陰四十九日迄の間、転生前には、迷執の業識が幻の如く作用することを、
霊魂実在と誤解されてきました。仏教以外の宗教はほとんど霊魂実在説ですが、仏教が業と、
根本識である阿頼耶識の相続を説きます。大師後約百年、
醍醐三宝院聖宝大徳を以って修験の派祖とするようになったのは、聖宝師の没後、
聖宝師が三密修法に勝れ法徳が高かったことを理由に末世の者が勝手にやったことです。
これが全国に根強く弘まりました。
明治維新後の神仏分離令が一時的にせよ公布されたのは、
この両部神道には山伏修験者が多く随身して祈祷を盛んにしたが、半面邪説を説いて、
無知の信者の被害も少なからずあったからです。そして修験道は明治政府によって廃止され、
彼らは天台宗、真言宗に編入させられたのです。
そのため、維新の大業に最大の功績のあった真言宗が最も大きな法難を受けることになりました。
この事実はもはや忘れられているでしょう。山伏修験が特に流布させたのではないのですが、
人間は死後も霊魂として生き続けると言う考えは民間信仰として永い慣習となってきたのでそれをことさら
利用したのです。
仏教の輪廻転生説によって、この霊魂信仰は一層固まったのであります。
この仏教の輪廻転生説を誤解したのが、自我としての霊魂の存在で、それを仏教が維持発展させたと言われるのです。
それは表面上の発展で、真の仏教の輪廻説とは全く異なるものなのです。
紙面も少ないので、結論を述べますが、仏陀生存中に弟子や信者たちが、常に質問したのは、
「世尊よ、人が死んで輪廻するのは。肉体のほかに、霊魂があるからでしょうか」というものでした。
仏陀はこれに対して、時には無回答を以て答えとしたのであります。有名なのは、阿含経の中の『箭喩経』でしょう。
この経典の要旨は、仏教は解脱、入涅槃の教えだと言うにあります。
悟りに関係ない問題に大切な時間を浪費せず一直線に成仏をめざすことを毒矢の喩で説いています。
毒矢に当たったものが毒矢をすぐ抜かず、これは誰がどの方向から射ったものか、毒は何か、
羽は何の鳥の羽根か、というような問題に心を費している愚行をのべています。
それよりもよく聞法して、教えの如く実践する行に励むと、煩悩が消え、または薄れて必然的に難病も治り、
生活上の諸々の障害も少なくなるのです。
ところが現代の疑似仏教の教えは、釈尊の教えに関係なく、或る先生の話、或る行者の話、
或る修験者の話が主で、多くは悪霊の障り、先祖の因縁、地縛霊だとか、方位が悪いの、稀には墓相が悪くて、
先祖の怒りを招くのと言って、早速先祖の成仏法、悪霊調伏の大護摩を修して、難病を治せと言うのです。
或いは因縁切りしたから病気は病院で治せばよいという本もありました。
癌をはじめ難病を祈祷で治すという行者があっても、宣伝する程、治った事例は甚だ少ないようです。
何故に治らないかというと、悟りに関係のない因縁、悪霊論だからです。
仏教では自分自身の悪業による苦果は説きますが、数百年前の先祖の悪業、
迷える霊が子孫に苦果として現れるという説は、因果論に反する邪説でしかありません。
仏教の根本原理たる因果応報の理は、自分自身の善因楽果、悪因苦果です、除霊法が効いたとか、
未だ浄霊ができないために死んだという如きは、全く妄語暴言に過ぎません。嘘の責任逃れと言えましょう。
迷信の心には鬼神が好んで憑依して身体に変な霊感を知らせますから、
そのことを以てこの教えが正しいのだと誤解して、邪説邪行の功徳行と妄信し精励することになるのです。
軽い病気なら食生活を改めただけでも自然に治るものですが、それを教えの信仰のお蔭であったと思うのも多いのです。
わが真言宗易行道は、霊障因縁説は問題にせず、先ず自分の罪を懺悔し、報恩行の不足を悟ること、
特に悟りの道を聞法して大日如来の真言を求世者なりとの教えを信ずること、朝一時間早く起床して、
感謝の勤行をする、さらに電車バスの中でも、真言念誦の良き習慣を養う精進を尊ぶことのみです。
あとの結果は、絶対仏の大日如来にお委せし、生死、損得を離れて、悔いなき生活をするなら、癌も治り、
その他不治を診断された病める身でも安穏にして苦痛なく、法悦の心から自ずと長命となります。
天寿の時は、無痛安楽死にして成仏とはこのことかと感謝を以て、その死を讃えられ、悔いなき感化を与えるのが、
この教えの特徴であります。仏教の不滅の“霊魂説”は、すべて生まれ死後転生するのは、
如来と同じ第八阿頼耶識とするのです。それは我執を去れば悟る根本生命と同体の根本識であり、
先祖に通じる識でもあるのです。
正しい善因業の生活こそ先祖供養となるのです。いくら先祖を供養するといっても、
誤った信仰生活なら悪因造業生活で、それでは仏果は期されません。お盆供養と万灯会は、
この意味で行われるのであります。御申し込みを深く感謝します。（了）