一月八日の例会は、昭和天皇の尊儀に、心からなる菩提の読経をして、参集会員の心が一つになった仏事となりました。
侍医団長は、九月の診断から、陛下の病気を癌であると発表しましたが、積極的な治療を避けて、毎日の診療に当たられた由です。
このことを聞いて、抗癌剤が用いられなかったことと、大手術を避けられたこととが、最も適した処置であったと思いました。
さて、新聞にみられる学者の意見の多くは、天皇の戦争責任の追及であります。
東大や一橋大学では弔旗掲揚を拒否したそうですし、いかに学者とは心の狭い者で、人としての礼儀も、
恥の何かたるかも知らぬ人達であると痛感いたしました。
憲法論では見解の相違もありましょうが、天皇の大権も政府の責任とするのが憲法の精神だと聞いております。
諒闇中に、何故このような意見を新聞に取上げるのか、何か片よったイデオロギーの表れと取られてなりません。
私たち密教徒から見ると、陛下は戦争責任を十分に表現なさっていることは明らかです。
言葉として発表されなかったのは、国家の不利を考慮なされたためであると解釈されます。
嘗て世界一の財産家は天皇でした。戦後全国の御料林、静養地、その他私たちの知らない巨大な財産は、国有とされました。
軍人が主となって、国家主義を唱えて、物質的には大きな遅れのある日本、また国民精神の強化を計って、
国論を統一するために考えたのが、愚かな現人神説なのです。
このように日本神道の哲理でもないものを捏造され、押付けられたのが天皇で、陛下は被害者第一号だと思います。
陛下程自由のない身は外にありません。天皇機関説は、美濃部達吉博士の説でした。
これは、いくらか智のある法律家なら、人間を何故現人神とするか不可解だからです。
私たちは、小学校から御真影を拝しました。学校に奉安殿を造り、学生は登校の時に解釈したものです。
その際、陛下は神様だと思った者はおりません。国の元首だから、最高の敬礼の的としたものです。
ですから、今頃現人神云々を強いられたと言っても、国民に被害観念はありません。
日本一国が、独伊のみを味方として、残りの全世界を相手にして戦ったのは、天皇による世界制覇のためではありません。
当時の米国英国に「日支事変」の解決を遅らせる行為があったために、米英に宣戦したもので、他の国には宣戦しておりません。
それなのにソ連は日本に宣戦布告して、あの非道な行為をしたものです。
でも陛下はこのようなことに対して不満の意を表されたでしょうか。
天皇は機関なるが故に、天皇の行為は内閣の責任によってなされる筈です。
悪く言えば、大臣の言う通りになされるのが天皇だと聞いております。
仏教から申して、世に特に尊い人間はありません。迷いの三界に在る者は、共に凡夫であり、衆生です。
娑婆は穢土であります。人間程勝手な者はないから、闘争が世の真相なのです。御仏の教えの対象は、共に虚仮の世にある凡夫です。
苦を招き、また苦を作る者は、己自身なのです。この矛盾だらけの娑婆を、少しでも浄化しようと努力なされているのが、
御仏たちであります。社会の浄化の前に、汝こそ懺悔せよと諭されるのが仏教であります。
この仏教を、明治政府はその真の教理を知らぬまま、異国の教として排斥しました。
平田篤胤の俄造りの反仏教思想は、仏教経典の比喩を理解できず、僧師を求めず、釈迦は飯綱使いとして解釈しました。
しかも経典は、釈迦の直説は僅か阿含経にして、他は弟子や後世の飯綱使いが作ったものと考えたのです。
この大きな誤りは笑うにも値しないものです。
とにかく、このような経過をもって今日に至りましたが、未だに過去の責任を問うて死人の屍に鞭打つが如きことは、
人間として最も下等な考えであり、行為であります。
人間は過ちを犯すものなのです。そこに教育が正しければ、過ちのない社会を期待する土台ができるのです。
今や日本は平和々々の音響が盛んですが、何故戦争になるのかは知らないようです。
人の心に問題があり、唯物主義と自我の思想とがあるようでは、いやな闘争心や心の修羅が起るのは当然なことで、
このことを国民教育として教えるべきです。教育の必修科目とならぬうちは、如何に思想家があり、大政府家があっても、
苦の中でも最大のものである戦争と同様な心理状態を起すことになります。これは日本全体の平和論者に求めたいところです。
片や平和々々、片や精神教育反対であります。自分が恩恵を受けている現実を無視して、
外国に理想を求めている高等な頭脳には唖然たるものがあります。世界中を歩いても、何故に国旗を、国家を排除する国があるでしょうか。
現憲法下では、象徴天皇であれば、天皇は吾々の国民会員の綜合表現であります。
と言うことは、私等の理想像の表現ですから、尊信されるべき国民像に似せて何が悪いのでしょうか。
天皇は国の象徴ですから、労働者の服装を理想とするならば、それもよいでしょう。
或は、狂人が増してきたから、そのような姿がよく、言葉もそのようにすればよいとの意見もあるかもしれません。
しかし、国民の元首として，どこの国の元首と外交儀礼を行っても、
日本の天皇に対して感じた満足以上のものを感ずることはないと語る人が多いのは、どういうことでしょう。
私は、天皇が立派に扱われると、自分も同じ喜びを感じてならないのです。日本人はそう思うべきなのです。
象徴と言えば、密教の仏像や荘厳具は人間に内在する最高の仏徳を象徴するためのものであります。
人間の実相は、必ずしも良い面のみではなく、汚れた世界をも多分に持つものですが、
しかし、内在している仏性こそ人類最高の進化した理想でなければなりません。
仏様は、このことを考えて、努力と智を教えて下さっているのであります。