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年頭にあたって
平成元年1月
織田隆弘
 「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもあり、めでたくもなし」とは一休禅師警鐘の言葉と承っております。

 天皇陛下の御病気については、御高齢でもありますので、国民等しく心配し、御安穏を祈ってまいりました。 波瀾と繁栄の両頂点を荷われた陛下の御生涯を推察できる国民は特にその感が強いでしょう。

 この度の御崩御に際し、会員の皆様と共に心から御冥福をお祈りする者であります。

 密門会もはや十五年を数え、会報『多聞』も百四十号になりました。 此の間入会なさった方には物故者もあり、又会報を読まないために正信から遠ざかった方もあります。 これも私の方の努力不足なのかも知れません。今後はやさしい内容にしたいと思っておりますが、会員の皆様も遠慮なき御意見を寄せて下さい。

 私は、御蔭様で少年期に心配された病身が、近頃は特に順調で、身体のだるさ、疲労感、足腰の不自由さもなく、 朝夕の満員電車でも、立ち通しで、西宮本部から新大阪の大阪礼拝所まで通勤しております。 七十を超えると、社会では定年過ぎて、悠々と老後を楽しむ頃ですが、私は第一線の楽しさで、希望に燃えております。 楽しむも苦しむも一つの身体でありますから、私の希望は一人でも半人でも苦しむ人を救いたい、 世の混濁を少しでも清まる因縁を蒔きたいということにあります。

 加持道場の建設費も約半額の献金を戴きました。既に三階の鉄骨鉄筋の駆体の補償費も終了し、 目下最高の内部設計と棟梁の日程を待っている段階です。近頃の東京は俄かに木造建築物の大工さんの手不足とやらで、驚きました。 密教美術の枠をもったものをと祈っております。今年中には完成し、入仏式を行うつもりです。

 青森の青龍寺は、昨秋密門会の教義を鮮明にして、純密易行派の霊場伽藍として、金堂建築の着工式を行いました。 大物木材を二万石製材中です。廻廊を入れますと、総延坪数百五十余坪となり、径一尺二寸の丸柱六十五本が主な柱となります。 神戸の名刹、摩耶山天上寺の金堂と同じ大きさと構造が自然に決まりました。 未発表の誓願が漏れ伝わり、既に浄財が寄せられて、感謝一杯です。 日々の御布施、御賽銭、その他一切の収入が充当されております。 無理な押付けはいたしておりませんが、これも仏天の御加護と信じております。 御協力の方々へは、供養の功徳が与えられますように祈るばかりです。新しい会員の皆さん、供養の功徳を戴いて下さい。 昭和大仏への献碑者は、立派なお徳を頂きましたから、加持殿についても必ず物心共に授かることを信じて、 正法に帰依する者の果報を隣人に教えて下さい。

 今年の主な行事
 一、授戒会
 二、得度式
 三、上級講習受講者の中から特に認められた者に、真言宗易行派大本山青龍寺から教師任命証を授けることにしました。
 四、初心者の講習会を高野山と青龍寺で行います。

 長い間の会員の皆さんは、立派に仏教の骨子を把握されており、指導者としての資格のある方ですから、今度はもっと自重自尊して、 自分は日本で貴重なる存在であるのだと自信を持ってください。将来、真言宗易行派が広まることによって私を援けて下さった皆さんは、 得難い誇りを持つことになる筈です。私も誇りに思って、人間に生れ、正法に遭うた意義を改めて感謝しております。

 真言宗易行派と申しても、何も特別なものではなく、私が平素唱えていることです。 易行道については少なくとも根本経典たる『大日経』に五か所見出されます。 また、高祖大師が『即身成仏義』や『大日経開題』に於て、大毘盧遮那仏神変加持の意味は、 大日如来の方から一切衆生に絶対なる大悲神変力を与えて成仏させて下さるにある、と教えておられます。 即ち、絶対他力の本願力、即ち本誓であり、これを信じる信心をも与え下さっているとの意味を、私は発見したのです。

 密教は現世利益を祈る宗旨とされていますが、諸仏を、多神と同じく、自身の外にあるものとした解釈が多く、 行者の念力と合わせて御利益を得るものと考えて来たのです。大師の意を汲んだ弟子は少なかったようです。 心の中に仏あり、仏と衆生と一体だと言いながら、御利益は心外の仏が下さるものと解釈して、 山伏系の雑密を密教の一派とした為に、仏教界では外道だと目されたのは当然でしょう。

 大師の教えは、私の解釈によって始めて最高度に進歩した仏教となる訳でありますが、未だに密教は易行道とは言われておりません。 昔の各宗祖は、御自分の新しい御仏の救いの道を発見して、立教されました。

 私は、最高の純密を全人類が等しく理解し信じるようになることを希って、自由な立場でこの尊い法門を宣布してゆく覚悟であります。 したがって、会員が受講して練磨した教えを、他の人に説き実修できるという自信を持って、病者を治せる方、又易行道を語れる会員には、 青龍寺開山から教師の任命状を授けますから、勇気を出して下さい。殊に定年を迎えた方や女性で自由時間のある方は奉仕して下さい。

 ここで大切なことは、○○教のプロの拝み屋さんでなく、真言念仏行は易行なることを表示して、共に真言念仏することです。 そのための会員を新たに導いて下さい。本部に登録しただけの会員に止まるようでは、会報のニュースにもなりません。 これからはもっと教えの尊さを自覚して、法徳を信じたら必ず他の人を入会に導いて下さい。盗法の罪を造らぬようにすべきです。 盗法とは病を治すことをのみ目的とし、常に菩薩道を求めないで、仏の道、人の道を磨かない人のことです。

 法を説くことは惜しまないが、報恩行を忘れるようではいけません。伝法の「密門会」を僧伽とします。 要するに、密門会に法恩を忘れるなということなのです。挨拶のない退会こそ、僧伽への忘恩行為であります。 退会する場合は、それなりの礼を尽くすことが折角仏縁に恵まれて少しでも受けた仏恩に対する人の道ではないでしょうか。 人の道を忘れて何の仏道でしょう。

   近頃の子供は礼儀を知らない、行儀が悪いと言われますが、大人の方が反省が足らないのではないかと思われてなりません。

 今年も、お近くの書店に『密教の門』『密教からみた教育』『密教祈祷の秘密』『信仰に迷わぬ百問答』を置くよう、 お世話をお願い申します。密門会の出版物は、正しい信仰の本という定評が出て来たようですから、それに拍車をかけることを、 今年の根本的奉仕行をして下さい。

 世話人の依頼状を受けた方は、よき功徳を積むようにという、御仏さまからのお声だと理解して下さい。 仏道の同行者だと尊敬させて頂きます。本会の世話人には、もっと仕事をくれとおっしゃる方が増えてきました。 命じたり、お願いしたりしなくとも、よく奉仕して下さるのです。特に大阪本部の会員方には、 先ずその方々が宿善を造られたことを心からお喜び申し上げます。

 大阪礼拝所は、私がいなくとも、事務上の責任者として○○さんが受付けて、ファックスで東京や青森に電送して、 加持を行っておりますから、安心してお参り下さい。いろいろ申しましたが、今年も皆さまによい年でありますように、 また、密門会によい年でありますように。           合掌