密教の加持とは一体何のことだろうか、と首をかしげるのが現代の仏教界でしょう。
加持と言いますと、空海後の雑密群が行った祈祷によって空海の伝えた三密加持の修法が、
単に現生利益の成就を祈誓するものと誤解されるようになりました。正しくは成仏法だったのですが、
それがいわゆる「加持祈祷」として低いものに見られたのです。
真言宗で真言を多く誦することになったのは加持の実践が行われたからです。
その加持とは、如来の大悲と衆生の信心をさします。凡夫の人身そのままに成仏できるとの哲理を習得して、
その実証を体験することであり、そのために行われたのが三密の修法なのです。
後に儀式張った飾りで参詣人の信仰の助縁となった形式を意にしないで、行者一人の実践行として、
朝夕の三昧に入るために行ったのが三密修法であります。
この場合、壇の上の供物に象徴されている六度の行の実践を忘れないことが、成仏道に必要な条件です。
その六度の行とは、既に会員諸賢の御承知の如く、布施、戒め、忍耐、精進、禅定、般若智の境に入ることで、
そのための意欲誓願心を強くすることこそ、本尊さまへの供養の最たるものでなければなりません。
その精進を具体化して、本尊前に供えるのが、密教の法具であります。このことは『密教祈祷の秘密』
に述べてある通りです（一三七頁以下）。
この精神が、密教僧には必要なものですから、この精神のない者は、成仏道を求めても、真の修行者、
求法者とは言われません。
加持とは度々述べて来た如く、加とは如来の大悲を言い、持とは修行者の信心を指すのですが、
これだけでは未だ成仏道とは言えません。なるほど病気を治すのは一つの導きでしょうが、
ここで大切なことは、この御道を授かる前提として必要なものに、懺悔、三帰依、十善戒、発菩提心、三味耶戒がある点です。
これらの条件を守ることによって、はじめて仏になる道の弟子として入門を許されるのです。
よく世間で聞くのは、これ程信心をし、また仏に供養しても、願が叶わない、神も仏もないのかと嘆く言葉です。
皆さんもよくお聞きになることと思いますが、これを聞いてどう思われますか。
私は聞いて、一応同情の念は禁じ得ませんが、このことをよく反省してみてください。
仏教特に密教が、仏教外の信仰と混同されていることに気が付かれるでしょう。
いわゆる祈祷信仰になっていて、加持がないのです。加持は結局成仏の直道です。
けれども、その直道に入る前の条件が明示されていることを忘れているか、捨ててしまっているのではないでしょうか。
日本の仏教は居士仏教と言われますが、出家としての二百五十戒は十善戒に収縮したものと言っても差支えないでしょう。
浄土宗、真宗には、十善戒は掲げてありませんが、仏を信じ、念仏する心に、十悪の心は起こらない。
入信の前には破戒無懺な罪造りをしてきたが、この身でも前非を悔いて、
阿彌陀如来の御本願を信じれば救われると一筋に信じて疑うことなく念仏するということですから、
十善戒が根底にあるのは確かです。過去の己の罪科を深く自覚し懺悔する心が自然に具わってこそ救われるというのが、
自然の語る往生成仏道なのです。これを忘れての信心では、決して救われません。
密教、禅、天台、法華宗等が聖道門と称されるのは、入門の始めに、懺悔、三帰、
十善戒等の実践を信者の道として誓約することになっているからです。
しかし、仏教は甘いもではありません。浄土門にしても聖道門にしても、
懺悔の必要さに目覚めることが成仏道の信者としての資格である筈です。
この上で加持の実践行を行うように、常に申し上げている意味をよくお考え頂きたいのです。
したがって、加持を忘れた祈祷は許されません。お加持、お加持と口で言うことは簡単ですが、
この意味を聞法してこそ、加持の直道の至るのですから、凡身そのままに自然に仏さまの仲間入りができるのです。
しかも仏恩に感謝する心が起こる時から、御利益を頂いているのです。
密門会の会員たるもの、このことをよく学び承知しておられるでしょうから、魔の入ることなく、
常識を豊かにし、邪説に迷わないのです。
欲願一方の『功徳行』とか『接心』とか『勧化行』とかを行ない、先祖霊の存在を聞いても仕方がないので、
正しい教養を身に付けなければ、迷いに迷いを重ねてしまいます。
密門会とは、なんでも奇跡が生れて病気は治る、お金も、地位名誉も早く受けられる、秘法が授けられる、
坊さん以上になれる会だと誤解せず、なすべき行ない、判断すべき正道を信じ、甘い御利益話を信じないようにして下さい。
なすべきことを日々行い、感謝の生活をし、報恩の行ないを無理なく課している者には、諸天善神の御加護があるのです。
正しい善鬼神には、恩をきせるような霊的事件はありません。邪神、低級神霊は、亊毎にその存在を誇示して、
霊感、霊能、降霊等を流布するのです。
現代文明の唯物科学に洗脳された人々は、霊的現象に触れると驚嘆して直ぐに入信してしまいます。
結局、正法の苦い味は嫌われるのです。長い迷信生活から醒めた時は既に遅く、菩提心もなく、
一切の仏典も目に入らなくなるのです。これは他人事ではありません。