会員の中からありのままの感想を頂きましたが、正純密教の信仰に救われた喜び、正法に遇えた幸福感、
又邪教の恐ろしさを知らされた等、大変良い勉強になりました。これ迄に、拙著に対する感想をしばしば
頂戴してきたことと思い合せて、御厚情の贈物として率直に感謝致します。
何より喜ばしいのは、加持の救いを自他に施して、病苦の消失に喜びを感じたというお便りのあった
ことで、密教の救いは顕教では味わえぬ喜びと思いました。
密門会会員の増加は、拙著によるのみならず、中山道治先生の、[真言密教の奇跡]の感化が大であった
ことを忘れてはなりません。病気の苦痛は病者でなければ知ることが出来ません。無病の人にはおそらく
分かることのない体験の世界でありましょう。
密教の目的は、決して病気を治すのみではないことは、折に触れて申上げて来ました。人類の幸せは、
健康にあることは勿論ですが、それは一部分のことであります。如何に自身が健全強力であっても、
四恩即ち国の恩、父母の恩、社会の恩、御仏と師の恩を忘れている現代世相をみると、真に嘆かわしい
ことであります。世俗のことのみならず、密教の世界でも、恩をはき違えて、邪師に心酔して迷いの邪言
を大切にしているのを見る時に、正邪を区別することの大切さを痛感させられます。
『平常心是道』とは禅家のよく用いる禅語であり、又『脚下照顧』もよく見られる尊い警句です。
密門会は、他の信仰団体では得難い信徳を説いて来ました。真言密教は、インドに始まり、中国に伝わり、
更に日本に伝来しましたが、折角の教えがあっても、その内容は大衆に理解され難く、唯有難い教えである
と聞くのみでは、実感が湧かないでしょう。よく迷いの暗夜より光明に向うと言われますが、仏教の心境
を理解するのは容易でない点もあります。仏教は、とかく観念の宗教とされ、世俗の苦厄に対する関心は
浅いように思われていますが、これは否めないところもあるのです。ところが、密教独特の加持の救いは、
具体的現実的であり、その及ぼす影響の速やかなること医学の比でないことは、此の度の会員諸氏のお便り
により始めて知らされたことであります。
先月、準備不足のまま郵送した世話人委嘱状に対して、世話人とはどういうものかを明示しなかった
ために、大変な負担になると誤解を招いたこともありましたので、直ちに世話人委嘱の趣旨を印刷して
お送りした訳です。事新しいことではなく、よく信仰されている方には既に実行しておられることなの
です。世話人として行える、最も簡単なことは、密門会出版部の刊行物を弘めることですから、これにより
密門会の入会者を増加させたいものです。他の教団の如く、新しい人に誘われた義理や、一時的に入会者
を集めるのではなく、常識ある人に仏教を理解して貰いたいからです。
広島の佐伯奨謙僧正の協力はめざましいものがあります。師は、加持法の伝授に感ずるのみでなく、
総合仏教の旗手たるべき真言密教に同感して、荒廃する人倫道徳、教育、マスコミ、政治に就いての、
私の見解に一々共鳴しておられるのであります。在家会員の方にもよく範とされたいところです。
師は長命密寺の御住職でもありますから、自坊の興隆に責任を持ちながら。よく私のような者への礼を
維持されるのみならず、財的にも協力を頂いておるのは、ここに特に記しておきたいのです。密門会が
昔お寺に在った信者の集まりである講社程度のものならば、全く社会からも宗教界からも無視されてしまう
でしょう。真言密教の本山のどこを見ても、密門会ほどの充実した会報、出版物を刊行し、講習、講演を
行っているところはないということを、些か自讃をこめて申し上げ、高級な仏教信者の団体である誇りを
持って頂こうと思います。
今迄多くの受講者がありましたが、中にはお加持で病人を救うことが出来るようになると、退会届けも
なく会費も納めず、自分の治した人を得意先として、自分の収入をはかり、おかしな教義を唱える者もある
ようです。まことに本人のためにも密門会の発展にも惜しい行動であります。
加持たるもの、行者の高潔な人格で究極の救いの教化力が育ち、又不思議な力も澄み清まるのです。
十善戒にある慳貪の反省を忘れないで、立派に教導の師となることを願います。一信徒を超えて教導の師
となる者は、道を誤るとそれ自体既に法罰を被っていることを忘れてはなりません。