『多聞』百号に際し、いろいろなことを想い出しました。
この『多聞」は三年続けられれば精一杯だろうという状態だったのです。
当時二百人程の会員を登録していて、五百部印刷することにしていたため、原価が大そう高くつきました。
最初三千円の会費でしたからここから『多聞』の費用、切手代を払うわけです。ご想像下さい。
このように乏しい経済事情でしたが、金銭のことは念頭におかず、ただ一心に修法するのみでした。
いつの間にか病が治ったという会員が増加し、三十七号の時はバックナンバーを綴じて合本にしましたが売切れ、五十号を数えた時は、
もう愛読者は固定していました。退会する人は僅か、発行部数は自然のなりゆきで増えて来たのです。
勿論、会員増加運動らしきものは考える余裕もなかったのです。
そのうち、昭和大仏建立を決意し、『多聞』に発表した時は、寄附金の強制があるものと誤解されるのではないかとの憂いもあったのですが、
幸に大仏建立主旨をよく御理解していただき、頗る平穏順調なものでした。
大仏献碑協力者も続き、会員の志納者もそろそろ限度がきたと思っていたちょうどその頃、
日本テレビの『ルックルックこんにちは』の出演となり、これが契機となって入会が急増し、一カ年で五百人も増えたのは大変嬉しい思いでした。
平年の四倍も増えたことは意外な幸運でした。
加えて昨年十月の、中山道治先生の『真言密教の奇跡』の刊行も大きな天の助けとなって、遂に二千名台に乗ったのです。
こうして百号は元気よく皆さんのお手元に届けられることになりました。
始めのうちは、癌が治った人でも入会を勧めませんでした。仏教は求道心、即ち菩提心がなければ長続きしません。
癌ほどの難病が治っても感謝のない人がいるが、本人に癌であることを秘しているために、信仰を知らないうちに治ってしまうこともあるだろうし、
もともと恩義も仏様の有難さも殆ど感じない人もあるからです。
お礼はしたんだし、宗旨が違うから他宗の信仰までは必要がないとか、親戚の者への手前もあるという、
理由にならぬ理由を言う人を強制的に入会させても、どうせ『多聞』紙は読まないだろうから、
そうなると会報が泣いて可哀想だと思いもしたからです。さすが会員の皆さんは、『多聞』や法話を通して、
密門会が仏教の興隆を目指し、真言密教の教えをわかり易く説き、しかも実践している集りであることをよく認識しておられることに、
何よりの力強さを感じております。長命して下さいとの私への激励には全く感動し、
自重自愛してこの有難い言葉にお応えするよう努力しているつもりです。
地道な教団ほど維持が困難で、邪教ほど弘まり易いものです。
後者はひたすら、“御利益”を看板にし、欲望に油をそそぎ、煩悩を燃やすことになるからです。
煩悩の炎は容易に静まるものではありません。狂いが深まり、お利益どころか、損失が一家の中に続出して、やっと覚める人がある話など、
言うまでもないでしょう。
このような悲劇は、たとい一人でもあってはならないと思ってきました。縁あって拙著を読み、
或は広告をたどって来訪される方は始めは邪教に迷っても、被害が少ない内に、密門会に転向されます。疑問が湧くからです。
感謝の言葉を受ける度に、正法に帰依した人の喜びを痛いほど感じます。私の嬉しさも同じです。
この良き友の来る数は、大河の流れの如き邪教群とは比較にはなりませんが、一粒の麦の種子が繁る如く、
密門会は正法の根を大地に植えてきたのです。今日三千人の会員が自然に盛上がったのは、まことに貴重なことです。
関西本部の開設は、特に計画したものではなく、会員の願いが自然に結実したものです。
御本尊様の前で瞑想をして決意したのでした。迷うことなく一気に決定したものです。
さすがに信仰篤き土地柄だけに、ここで新会員が三百人を超えました。
これまで、最も良く協力されて来た広島の佐伯奨謙僧正、埼玉の酒本隆泉師は、本会の大先達として、法友として大活躍されていますが、
これは同時に両氏の発展にもなるわけです。佐伯僧正は、自分の坊の興隆を計ると共に密門会があってこそ正法の理解は増し、
固い信者が生まれることを信念としておられるのです。近時、医師でありながら宗教に関心を持ち鋭い識見によって、
密門会を正見せられる○○先生や、今回の高野山講習に体験発表された○○博士の結縁によって新しい光が期待されております。
一番初めに理解されて、三ケ年というもの毎朝真成院の加持道場に参禅された○○先生は、もう漢方療法で多忙を極めておられます。
その他、会員となり、医療の中に加持の徳を施しておられる方に、九州の○○先生、埼玉の○○先生等があります。
医師として、加持力が及ぼした種々のデータによって、米国で研究発表を志す横浜の某医師もおられますが、早く日本の医学界も、
この加持療法を積極的に取上げて、世界に先がけて、その研究成果を発表して、
密教という勝縁を人類永久の救いの灯火たらしめるよう期待いたしております。
今に、正純密教と邪教と、何れが憂、何れが劣であるか、常識となる日が来るものと確信いたしております。
この時大切なのは、癌は治っても必ず人には死の来ることを悟り、生身そのままの成仏道こそ正純密密教の面目であること知ることです。
又、平素唱導して来たように、学校教育の中にこの真理を教えるように運動するのも、大切な本会の役割です。
会員諸士よ、この会を吾が生命として、毎日生き甲斐のある信仰生活をして、世に範を垂れ、一人半人の同行を増すべく、力を尽くして下さい。