昔の人は立派なことを言ったものです。儒教からの名言だと思いますが『医は仁なり』と申します。
又仏教では如来のことを医王とも呼びます。このことは現代でも口にされ要求される金言です。
多くの医師はこのことは既に承知済みでしょうが、実際に仁医とされる医師は希有の存在です。
医師に代って国が行おうとしているのが医療保険制度でありましょう。
しかしこれも、考え方と、人によっては、医療費の前渡し制だと言えるのであり、健康に留意する人からみると、
まじめに健康増進法に努力する者が怠慢者の犠牲になる制度だとも言われるでしょう。
国に仁を求めるのは無理というものです。医は仁なりが理解されなくなった理由は、先ず医師の志願者には、
仏道入門者と同じく仏心即ち菩提心がなければならないからです。
菩提心とは大乗仏教では、『上求菩提、下化衆生』と申して、同体大悲の菩薩の行を必要とします。
全人類、社会万般のことは総て競争心があるから進歩があります。そこには必ず栄枯盛衰が見られ、勝者敗者の喜悲交々の姿があります。
これを世間相とし、これが娑婆世界の実相なのです。これを否定しては進歩がなく開発もなし得ないほど、娑婆の必然的条件であります。
共産主義でも同じことで、労働貴族が現に人民を搾取しているのです。
ところが、医師の世界では、名医があって、真実に患者を救うということは、医師の収入源たる患者が減ることを意味します。
商人にして言えば、お客が失われてゆくということです。随って皮肉なことに、名医は収入が減じて生活が保証されなくなると言えるでしょう。
これでは医師になる人も減り、他に職業を求めざるを得なくなります。
但し、このような予想が現実のものとなるのは、正にこの世最高理想社会になることで夢物語と一笑されることでしょう。
昨年十二月の第二十九回密門会の講集会に参加されたある医者さんがおっしゃいました。
『真言密教の加持の教法は古くから伝えられてきたが、これ程の威力あるものとは知らなかった。
世によくある貴重な治療法や妙薬は、家伝とか、或は一子相伝の秘法として、他に伝えることを拒んできたのが実際であるが、
織田氏は、これを広く伝法しようとして、僅かの伝授料で、しかもそれは未知の人々に伝授することを知らせる為の高額な広告代に消え、
もし応募者がなければ大変な損をする程度のものであることに驚いた云々』と言われたことを聞いて、
ああ、よく私を理解して下さったと心から嬉しく思ったものであります。
仮に求める来る者が少なくなった場合には困ると思うのでは、真の仏教者ではありません。
正にロウソクと同じで、闇黒の世界に苦しむ人々の為灯火となり、我が身を燃して働いて無用にされた時に真の面目が立つので、
此の時真の菩薩として証明されます。信者獲得戦に血道をあげる邪教のなす独善非礼の輩とは自ら異質のものであります。
しかしながら、この夢は何百年先に現実のものとなるのでしょうか。この加持法が正しく弘まるにはまだまだ大きな努力を要します。
会員の皆さん、幸に会員の中に現職の医師が年々増加し、受講者も増してきたことは、
西洋医学に立つ医師の中に真実医道が確立しつつあることを思わせます。医師が入道得度して、袈裟を懸けて、心から身病を治す。
医と仏道一体の理想医師の増加することが期待されます。
来る九月の講習会に高野山を選んだのも、その願を込めて発願したことです。ここは会場が広いので、全国会員の参加を期待しています。
老骨の私はいつ倒れるかわかりません。一期一会の意味をよく理解して下され、会長がいつまでも元気でいると考えるのは戒めねばなりません。
私は長命しても七十歳と予言された病身者です。薄命者とも言われました。
一日一日の生に感謝しておるから、一人でも多く立派な弟子に正しく伝えたいのです。
正純密教の成仏道が即救病の道程であり、これが現代医学に必要とされ、常識化した時は、日本の医界の実際が遠からず外国に伝わり、
ひいては全人類が初めて無神論、無霊魂の教に目を洗われるでしょう。
更に業因縁の正しい道を信じて、無駄なき現実社会の大改革こそ精神文化の真髄であることを悟り、
釈尊の説かれる法〔ダルマ〕を永遠に尊ぶよう、互いに努力しなければなりません。医聖の排出を信じて止みません。
九月講習会を成功させて下さい。この加持法は、単に病人を対象とするのみでなく、社会万般の指導原理たることを、
世人に知らしめる一関門であります。人類には病苦から成する難問苦因が余りに多過ぎることを思う時、
先ずこの道の発展を会員各自の協力で成就させたいものであります。