昭和大仏完成近しのニュースは北の雪国にも漸く心の光が射込みかけた感があります。
地元民の中からは、喜びの声と共に、遅いながらも献碑を申込みますという電話があったり、直接訪れる方もあったりして、
今迄に見られない状況となりました。又現場参観の車も見られます工事現場の足場を取り去ったら、お姿が現れるので、
その時はおそらく通行を止めなければ工事の妨げとなるでしょう。有難い事です。これも御仏に結ばれる一つの縁だと思います。
これからは、地元の人々もさまざまな考え、思惑で近づいて来るものと思われます。
率直に言うと大仏の大きな姿が珍しいから一目先に見ておこうかというのが本心だろうと思います。
それでも良いのです。このようにして私達の仏心が良き因縁として働く不思議を、段々と知ることになるからです。
今は宗派仏教どころか、寧ろ非仏教の新興宗教に参加する人が多いのですから、とにかく仏様に近づくということは、
何よりも有難いことと言わねばなりません。私達は、この縁を粗末にしないで、尊重して、菩提心を誘発するように努力すべき天務がある訳です。
仏教は各宗共に、一切衆生を成仏させねばならないという、御仏の御誓願を信じておりますが、それにつけても、
如何なる仏様の大慈悲でも、本願力でも、一闡提不成仏と申します。
御仏の教を信じない者は、如何に如来の本願力があっても救うことはできないという意味です。
五逆誹謗正法の者を除くと本願にあるが、絶対他力を棚ボタ式に考える安易な気持を戒めているのです。
如何に西方阿弥陀如来の大本願力があっても済度できない、お浄土には往生不可能だぞと断っております。
どんなに広く深い御教でも、不成仏の者は有るのだというのです。如来は常に救いの手をさしのべているのに、それを拒む以上当然でしょう。
しかるに密教は、更に積極的に一闡提こそ救いの対象にあると説く。
一闡提とは自分と関係のない悪人のことではなく、仏に逆らった生活をしている自分のことであるという信心の自覚から出た言葉です。
親鸞の悪人正機説もこの意味です。懺悔という深い悲しみをくぐり抜ける時、如来の加持力がありがたく身に感ずるのです。
密教で説く一闡提成仏は顕教、即ち密教以外の仏教と大いに異る点です。仏の教を信じない者、教を聞く考えの無い者は済度されないといいますが、
密教では、神変加持の成仏道であるから、一闡提でも己の非を深く懺悔するならば当然救われねばならぬという教えがあるのです。
これは今日こそ問題にせねばならないものでしょう。
確かに密教以外の宗派の教に関しても、なるほどと思わせるものがあります。ただ、如何に成仏、悟り、往生極楽が尊い至高最上の世界だと申しても、
誰でも聞いてすぐに信じられる境地ではありません。これは昔だからではなく、現代でも同様に感じられることです。
即ち信心の起らぬ人は少なくありません。有名な禅の老師の法話でも、或いは念仏門の有名な説教師のお説教でも、
聞いたから必ず信心が起るという訳にはまいりません。特に近代は、科学的な知識の持主には、真の信心菩提心を期待することの困難が増して来ました。
ところが私達の密教は、顕教にないところの加持の法門、加持力の神変功徳力を説きますから、この物理化学の頭脳で宗教を否定する人を、
百八十度転向させることが度々存在するのです。これは科学の知識があるから、反って成仏神変加持力を否定できなくなるのです。
科学的頭脳なるが故に、科学より勝れた力、価値の実在することを否定できなくなって、菩提心を起すことになり、
信心が正しく求められることになるのです。
世の多くの男性が、事、病気になっても驚かないのは、科学療法への期待があるからです。
ところが実際はどうかと申しますと、その化学療法の本山たる医科大学の教授達、臨床医家になればなるほど、
化学療法、物理療法でも治せない病気が多いということです。素人はそれを知らないで、医師を信じて安心して診療を受けるのですが、
軽い病は治っても、多くの難病は治せません。殊に化学療法の世界では、癌その他の難病は治す法がないのです。
一時的な特効薬はあっても、副作用によって、必ず死を迎えることを知ると、漸くワラを掴む思いで宗教にすがるのです。
この時は幸にして正純密教の阿闍梨に縁を得た人は、化学療法でないやり方で、指一本触れないで好転するのを知るに至ります。
理屈の上では治る筈がないのが、現実に治ることによって、人間の理性に限度のあることに気がついて、遂に仏教の存在を認めるのです。
こうして心の世界の大切なことに気がついて、遂に立派な信仰家にもなり、大往生を遂げることになるのです。
要するに。一闡提が成仏道に転入することになるのです。これこそ、密教によって始めて正しい信仰を持つことになる好例です。
そこで一つの質問が出ることが予想されます。病の治ることは密教のみでなく、新興宗教でも、法華経行者の力でも治るから、
要するに夫々の宗教への信仰心があれば成仏するのではないか、という疑問です。確かにそうです。
その場合の教えはどんな教理であるかわかりませんが、生理学的人体放射能的な方法で治したというのでは、菩提心を発することと意味が違います。
それは一つの治療方法と見做されますから、そのような治り方では菩提心を発したとは言われません。
新興宗教の信者が死んでも、大方はその家の宗旨と申しましょうか、先祖からの宗教によって葬式を行うということです。
この点では、その人は一闡提ではなく、元々心の中に信仰心のあった人ですから、家の宗旨に帰結したということになるでしょう。
真の一闡提は、家代々の宗旨宗教の慣習さえも否定する人ですから、真理を説けない宗教は理解し得ないのです。
随って密教で救われる時の理解は、単なる霊力、霊魂等の否定には共鳴しても、未だ信心の起らぬ位置から出発して、
遂に加持力の妙力に体験を得て、成仏道の光を悟るのです。一闡提だった身が、如来の加持力によった仏心が表面化するのです。
この意味から申しても、昭和大仏の利益は千年先まで無限の救いを続けて下さることがお分かりになると思います。