昭和五十一年十二月に、「日本再生の鍵」を刊行したところ、読者から身に余る讚辞を寄せられました。
又他の方の著書に引用されたこともあり、共鳴者のおられることを知って、この上なき喜びとしたものです。
忘れられないのは、刊行後六年にして、評論家の亀田候治先生が、古本屋で求めたと言って、或る新聞に詳しく紹介して下さったことです。
このように無名の一僧侶の説にも目を通して下さった方が多勢おられることを知り、勇気が倍加させられました。
七年前は、日本の将来を憂うるような堅い本は売れないと言われたものですが、ところがどうでしょう。
今は私が申したように、教科書問題が至極重要な課題となっているではありませんか。
森本真章教授等の精密な調査にによって、今迄の社会科の内容は、反国家的で、左翼運動の先棒を荷つた内容であることが指摘されました。
文部省の係り官もその責任を逃れることが出来ない、言わば或る方面からの魔手の手先役となっているのではないかと疑われても止むを得ないことです。
私の述べる教科書の問題は、そのような不祥事件的なものではなく、いつの時代でも、どこの国でも必要なことで、
教育の基本にかかわる問題なのです。
人類の幸不幸はイデオロギーで左右されるものではなく、資本主義や社会主義にかかわりなく、
或は民主主義、王制にしても、それらを越えたものであることを論じたものです。
仏教の教える精神は、十善戒によって保たれるということで、例えば聖徳太子の十七条憲法は、万古不易の人類幸福の根本条件であるということです。
これが遵守されれば、国家の予算、いや全世界の税金が半額以下に納まるということです。又国民に休養の時間が増します。
現代では余った時間は悉くバカンスや経済関係の仕事の流用に止まりがちで、随って消費競争が付きものでしょう。
ところが、仏教を信じるようになると、休日は在家者の参拝の日になり、聞法の席になるのです。
この点キリスト教の日曜礼拝、日曜説教を範として、仏教徒は仏教本来の提唱、法話、参禅、真言行、念仏行等の行持が行われると、
世の中の無駄金、無駄な物資の消費が至って少なくなり、破壊に代る維持改造が尊ばれるようになる筈です。
そうして一家は互いに助け合い、家族制度の悪い面は改められ、美風が再生されて、冷ややかな福祉施設に血と心が通い、
真実の感謝と慈愛がみなぎるようになるでしょう。
勿論行政の無駄な機構も大いに改められ、給与も平等化して、巧みに私腹を肥やす役人から盗心が消えるのみでなく、
よく時間を尊び、勤務に精励するようになります。そうなると当然役所の財政も豊かとなり、有意義なる予算が組まれ、
永く有効適切な行政が行われるのは当然なことです。
現代の特権階級の横暴さは、医事関係にも多く見られます。製薬会社と関係省の担当役人の結託は大変なものと聞きますが、
これを防ぐ事が容易になります。こうして国民の衛生知識も、教育の中から与えられて、病気でさえも、
正しい信仰者に与えられる如来の加持感応から、薬以上の速効を公平に知ることが常識化されます。
これこそ教育する者の目的であり、果報であると思わざるを得ません。
十善戒を徹底する教育によって、税金が今日の半分になるか、或は現在と同額の収入で、今日の二倍近い有効な支出となるでしょう。
公共施設が多く建設され、しかも国民に身近な設備投資が期待される訳です。
皆さん、お互いが同じ働きをして、二倍の公共事業が出来、税の五割減が期待されるというのは、夢のような話でしょうか。
そうではありません。これこそ我国実現可能な目的であるばかりではなく、全人類に均しく師範となるものです。
これこそ密教に包まれてきた教学です。 実践面では迷信を消し、正しい摩訶不思議力を知り、無我にして素晴らしい奇蹟が生れるのは、
一にも二にも教育の中に、仏教による哲学、倫理、経済、司法の重要さが理解されることです。
今のままでは、法律違反の教育による、人倫無視の教育が行われるばかりです。
生徒に学問を教える教師自体の反省がなされ、父兄側もまた強い懺悔をしなければなりません。
正義心が旺盛にならなければ、自我の上に立って徒党を組み、上手に謀議の成功を念ずる教育に堕してしまいます。
学園内の教師が非行的であれば、どうして生徒の不勉強と不良化を防ぐことが出来るでしょう。
この意味で私は常に教育の根底に仏教が必要欠くべからざるものであると主張してきたのです。
人類の幸福は主義主張の争いによってもたらされるものではなく、埋もれていた密教の教学の研修、
実践によってこそ得られるのであると深く信じる次第であります。