最近の難病で意外に多いのが、精神病で、本人は勿論のこと、家族の悩みも大変なものである。
対人関係の閉鎖性で、家にあっても自室に閉じこもり家人との対話もない。仕事の意欲は消え、学生の場合は勉強が出来ず、
ただ悶々と日を送るばかりで何をすることもなく、暗い将来を想像するのみである。
精神転換もすることがなく、不満心を持ち、外部の者が自分を無視したり、協力的でなかったり、障りになったりするように映る。
妄想に耽るのみであるから、随って心内の鬱気が外部の者を別人と見させることになる。
他人の親切心が感じ見られず、悉く自分を無視している如くに曲解し、一層孤独に押しやることになるようだ。
心の奥にあった自尊心が消えて、自我を主にした勝手気儘な妄想に沈澱していくばかりである。
忠告や注意を憎み、殊に弱いとみては母の愛情に逆らって暴力を振うことになる。
遂には人を選ばず不安を与え、危険視されて、精神病院へ入院が必要とされることになる。
けれども病院は精神病の原因を知ってか知らずか、薬の投与で時を経過するのみである。
それ故、好転する例は少ない。薬の力で一時的に病勢を押えたり、興奮をおさえるにすぎない。
その副作用を考えると、安心できる変化ではなく、返って悪化した感じを受けるのである。退院する方が安全だと判断される場合が少なくない。
入退院の繰返しが続き、いよいよ回復不能となると、欠陥人間として、病院で一生を過ごすことになる。
省るに、精神病なる現象と、その原因について、薬で治るとする現代医学の在り方を、一体誰が正しいと云うことが出来ようか。
ここで私は依頼者に応じて加持を施すことになるが、事情を聞いて私なりに観察するに、その病の原因の多くは、
表面は意志が弱い反面に、我意が強いということを指摘せねばならぬ。要するに強情なのである。
仏教で一番戒めるのが、この我見煩悩の熾烈さである。精神病に於いては、この心が表面化しないで、内向的に強情になるのが原因である。
随って親の情も先生の話も聞けず、精神上の転換も行動の発展もなく、これの我見によって作る妄想から悲観的となり、人生に対する希望も、
幸福追求の努力も休止することとなる。そのようになる動機は簡単なものではない。
戦後の唯物的自由思想と、個人主義の流れは、教師の行動を団結による下克上、反体制運動に奔らせた。
そこで自己の反省とか、懺悔とか礼儀心を否定する。ただ、数の力を頼み、自己に損を与えることには絶対に反対する。
たとえ自己に原因があっても、責任を他に転嫁する。幼い子供が川に転落死したのは、役所が川の上に蓋をしなかったからであるとして、
役所の責任を問い慰謝料を要求する如きである。最近ニュースで賑わったのは、近所の親しい人に、
自分が買い物行く間子供を一時預けてお願いしますと云ったのを、不意のこととして断りもならず、親切心から承知したが、
その子供が事故死したので、その責任を衝いて訴訟になったことである。善意から断れなかったがために数百万円の補償金を払うべき判決が出た事件は、
読者のよく御承知のことである。これに反対の声が挙がったことから、日本にもまだ良識が残っていることを知ったがそれは別の話。
仏教の業とはこのことである。仏教国といわれる日本では、不可抗力の惨事に遭遇した時にも、諦観無常観の悟りがあった。
死んだ者は二度と帰らない。失った物は返ってはこない。これが浮世の現実であるとし、悲しみになきながらも、元の心に立直るのが早かったものである。
現代の如く、何十年でも裁判しても、損害の補償を得る迄闘うとの勇ましい行動もよいが、果してこれが幸福な人生だろうか。
そのために膨大なエネルギーを消費して、折角新たに生れるかもしれない因縁が、このような我意と、ただソロバンのみの人格には、
到底湧き難いと云わねばならない。
学生にしても、子供の時からこのような心の流れで育つから、勉強しても、自己の力量、学力の限度を知る由もないのに、
欲望のままに勝手な目標を定め、これを成し遂げることが出来ればよいが、事、期待通りの結果に至らぬ時は、心身甚だ穏かでなく、
自信を失い自分の将来に暗い翳を妄想し、自己の標準を改めて、可能性を設けることもしない。
このような心の悩みと妄想が、脳神経を占領するから、肝腎の勉強や仕事そのものに成り切る程の働きがなく、更に能力が低下し、
自暴自棄化してゆくしかない。
家人は家人で、それを理解することがないため、学歴が悪ければ、将来低賃金の生活になるぞと励ますのみだが、これが逆効果を招くのである。
又衛生的には、脳の栄養にマイナスになる肉食、おヤツの菓子類、、甘味の増加が当然知能を低下させるのである。
何故海藻類と鰯類を子供の食膳に供しないのか。吾々は豊かな経済力の?の果報を受けているのである。
一家を構え、或は豪華なマンションの生活をしても、昔のように遠い親類より近くの他人とかで、隣人同士合うこともなく、
虚栄の張り合いをする、我煩悩の生活を見よ。
精神病の原因は、本人の過去らの自業と家族の共同因縁にあるが、生れてからの我煩悩の苦悩の結果が多いことを忘れてはならない。