「困った時の神頼み」「喉元過ぐれば熱さ忘れる」。この二つの諺をつくづく感じさせられる昨今です。
現世利益については勿論のこと、永生の悟りの道についてもこれらは強く反省をうながしてくれます。
如来は平等に御利益を与えて下さっているのですが、与えようとしても、手の上に伸べられている御利益を受けないで横向きしたり、
手を仏前に出さず、後方へ出しているのが、衆生の実態ではありますまいか。
このようなことを思う時、あの人も、この人もあった、その後どうしているだろうかと、哀れに想起されることがあります。
反対に誠意を以って求めるのだが、貧しいために、祈祷料を納めるに苦労している人もあります。そんな人のためには、
祈祷の期限が切れても、たとえ見込みがなくても、安楽往生なさるまでお祈りを続けさせてもらうこともあります。
四年程前にＨ県の或る島から、娘さんを連れてきたお母さんがありました。脳腫瘍とのことでした。
私は脳腫瘍は始めての患者でしたが、充分治るという感応がありました。そこで根治迄には三ヶ月を要すると伝え、
一ヶ月の特別加持をいたしました。正に好調快調の報告でした。しかし、二ヶ月目になると、お陰を評価することを惜しみ、
半額の加持料さえ送られて来なかったのです。二ヶ月での根治は疑問でしたが、何等感激の意を感じられぬまま、
他の悩む人に力を集中することになり、その人は打切ったものです。それでも脳腫瘍の経過は知りたいので、時々様子は伺っておりましたが、
再発なしとのことで、よかったと思ってきました。
ところで医事評論家として著名な中山道治先生が、私の救った患者実例を調査なさったことがあります。
現代医学では全く治ることはないと云われている脳内癌で、これは頭蓋骨の中に生ずる難症です。
中山先生が訪れる前にアンケートを求めたところ、前々の報告同様はその後再発なく感謝しているという報告でしたが、
中山先生の直接訪問を拒否されたのには驚きました。今も病院に行っているというのです。
私は誠に不可解な思いでした。真に悪くなっているなら何故私に依頼しないのかということです。
結局医薬の方に期待したとしても、上京してきて僅か一ヶ月間であらわれた奇蹟に、少しも感謝の念はなかったのかという疑問です。
今日まで多くの救いを求める人がありましたが、祈祷料を踏倒する人は甚だ希で、少なくとも。
その遅れる事情を知らせてくる人はあっても、救われながら、慳貪というか忘恩というか、計算高いという外には考えられない人は珍しいのです。
私は依頼を受ければ是非治ってもらいたいと、少なくとも、天寿が来て安楽に成仏することを祈ってきました。
又この私の誠意は、患者さんにもわかり、不治の癌と悟っても苦しまないのはお加持のお陰だと喜ばれ、亡くなられた後での家人の報告では、
この旨を感謝なさるのが普通です。加持の妙法を行う自分は、実に有難い仏業を行わせて頂いていると、しみじみ感じ入ることです。
忘恩、慳貪は、病を永引かせることとなり、その治療費は、保険があっても、相当な無駄になるものと言わなければなりません。
今一つ忘れられないのはこれもＨ県の婦人ですが、御主人が心臓に水が溜まって手術するとの事で、内緒で祈祷の依頼をして来られました。
私は、早速、手術しなくとも水は引くからと手紙で伝え、毎日加持をしたのです。
奥さんの手紙では、手術したが、水がなかった、開いてみたら血管の中にゴマ粒の如く癌が生じているとの事で、
重ねてお願いしますとのことでした。結局これも治ったのですが、二ヶ月後無事退院してからの手紙には、
主人は今度或る宗教に入信したので、主人の命令でこれからは先生の方はお断りすると書いてありました。
何教に入ったのか、いつからその宗教に世話になったか報告して下さいと要請しても、返事なしです。
その人は、新しい宗教に入信する条件として、他の宗教を断るようにと、脅されたものと思うのです。
又このようなこともあります。東京の或る女性教授が癌で入院した日に、私の本を読んで来られました。
著しい感応がありましたので、入院不要なのだが、義理の上で入らぬ訳にゆかぬというので、せめて抗癌剤の不使用と、
手術をしないという医師の言葉を信頼したものです。入院後御主人とお子様は一回来られましたが、
別に頼まれもしないのに私は三週間遠隔加持をしました。その後来信がないので、
忘れかけていたら御主人が急に退院しましたと云って来られました。抗癌剤を使用しない約束だったのに、
十本打つ注射の中間の五本目で毛髪が抜けるので「あ、抗癌剤のせいだ」と気がついて、実父をして医師に抗議して退院された由でした。
私はその勇気を讚えました。見事な勇気です。入院患者は、病院の中では俎板の上の鯉で、
真に不合理とも云える試験用実験台にされているのが実情です。折角早く加持感応の妙力に遇うても、
薬害のために命を早く縮めるのです。余りに多くの実例を見ておりますから、病院に殺されに行く癌患者としか私の目には映らないのです。
あれだけ実例を示しても、病院の医師は大王にも勝る存在だと過大評価しているからです。このような勇気ある女性のあることは、
私の喜びとすることです。
けれども、自己の尊い体験を世に発表することは困る、匿名でも許されないとすれば、
要するに未だ私は信頼されていないのではないかと、再三反省しております。
これらは、私への期待か現世利益に止まって、成仏道に至らぬためです。折角仏教に遇うても仏を知らないと云うべきで、
菩提とは成仏が難しいのでなく、密教に遇うのが難しいのだと教えた、空海の師の恵果和尚の言葉さえ当らぬようです。
会員の皆さん、病気が治ったらもう密門会には用事がないと言った元学校校長もあります。
営利を求むる商人ならよいとしても、教育者にして、このような計算高い御仁もあるのが、正に娑婆の実相であります。
病気が治ったら、更に最高目的の成仏々を目指して、立派に此の世に生れた目的を成就して下さい。