昭和大仏建立に当って、奉讚供養申込趣意書の発送については、印刷費も郵送料も数量が多いので、私は選択をいたしました。
全く判断のつかない方でも会員の方々には一応お送りするとしても、中には、生活と育児に精一杯の山村の会員もあることを知っていますので、
御主人が出稼ぎに行かれ、或は長い間病身で人並みに収入のなかったことも承知しております。お子さんの一人が病気で、母子揃って上京し、
加持を求め相談に来られた方もありますが、一心に御仏の大悲を信じて来られた様子が五年後の今でも思い出されます。
正月の祈祷には必ず申込まれ、時たま子供たちの成長を伝えて、
苦しい中に常に光を見出そうとする心境には秘に幸せの恵まれることを祈らずにはおれませんでした。
名前も住所も調べなければならない僻地で、その故にこそその人の面影や子供等のことは想像できるというものです。
随って、大仏建立の寄附をお願いするのは遠慮しようと判断して発送見合わせの部に選別しておいたのです。
ところが、全国からの送金と申込書の中に、金拾万円と、『為仏恩報謝○○○○』の送金申込書を見てハッと思ったことです。
私は富裕な方々の多くを知っております。またあの人なら相当に協力して下さるものと期待し、いち早く資料をお送りしたこともありました。
大難病が治ってみると、癌とお金の重さを比重してみるのが人情というものであります。御仏は決して期待するなと仰せられます。
期待して報われなければ、その心に不快と瞋恚を引き起すからです。
反対に、期待してはいけない、求めてはならない貧しい信者から、拾万円の大口奉讚金を頂いたことは、億という供養金を頂いた想いでした。
しかも、自らの願を言わず、ただ仏恩報謝のためという願意は素晴らしい心徳の顕れです。お金は大切なものです。
報酬なき支出はなかなかできないもです。
御仏の教えには、供養について重要なことを多くの経典にお示しになっておられます。皆さん御承知の三輪清浄の供養、ことです。
施し供養したこと、与えてやった相手〔寺院の場合も〕その供養仏〔金額〕も、三者一体空不可得を観ずるのです。
有意義な聖業には躊躇なく素直に応分の供養する者は、求めずして限りなき果報が与えられるということです。これが成仏の早道となる訳です。
要するに、施すについては、あれこれその効能を計算するなということです。これは慳しむ心を指すのです。
併し凡夫の身としては実際にはなかなか難いことです。密教では、三輪清浄の心について、直ちに欲と期待の酬いを求めるなと申さずに、常に、
施主個人の欲に代って成就せんとする如来の誓願に同じることを道とします。即ち大日如来の御心に添うことを仏作仏業とするのです。
それ故、この仏作物業に協力する精神的働き、物質財宝に捧げることを最も尊いこととして讚えます。
『大日経』には、人々の苦因、即ち御仏の折角の大悲に救って頂けない根本因は、『慳』であると書いてあります。
普通仏教では三毒の煩悩と言いますが、その三つの毒の第一は貪欲と表現しております。
これを別な言葉で明瞭にお示しになったのが、私達の信仰と救いの根本経典たる『大日経』なのです。このことは講習会の際にも屡々述べてまいりました。
どんな人にも仏性はあるのですが、この仏性は人間の心の奥の奥に秘蔵されていて、発動する機会が少ないものです。
人間は万物の霊長だとして威張っておりますが、豈はからんや一切の動植物にもそれぞれの仏性があります。
その仏性の発動の如何によって、尊卑に分類されるようです。
仏性の具体的表現は何かと申しますと、学問もなく、教えを聞くことなくともあるのは、慈悲の心です。
慈悲心を拡大しますと、みんなが真の自由を得た悦びをもつことになります。その自由の中味は、今日喧伝される西洋流の自由とは全く異なるものです。
先ず、仏性でいう自由には第一に戒めがあります。釈尊が入滅される時の最後の教では、我れ涅槃に入り吾身を見ずとも、
戒を守り持すところに、常に我れが生きると申されたことです。
即ち理想や、極楽の効能書を言う前に、この戒によって、真の自由が行われるとお説きになったので、これを仏教の要、核心としております。
この戒めの中に、殺生の罪、盗みの罪、男女の道の守るべきことを最重要の戒めとしております。
不妄語という戒もあります。これは従来解説者は少ないのですが、前三つの罪同様に重要視されます。
このことは、考慮、智識を先とするのですが、何を妄語というのかと申しますと、仏教に反した思想、信仰のこと、仏作物業に協力しないということです。
仏作物業に当然義務的に爾然命法と受ける人が、その仏作物業に協力すべき心が湧いても、
その出す金と果報の価値を秤に掛けて出し慳しむ心等を妄語妄信と申します。
感激を覚えるのは、この爾然命法と感じた○○さんの如き浄財を捧げる心のあったことです。或は失礼な私の一人考えでもありましょう。
が、受けた私の感激はこの通りであったから、ありのままに紹介させて頂きましたことをお許し下さい。