世界に宗教は多い。それらには強烈な民族意識を感じる。現在世界に活発な宗教運動が行われているが、大宗教即ち、
世界的宗教として代表されるのは、キリスト教、イスラム教、そして、仏教でありますが、前二者の強烈さは仏教徒には想像もつきにくい程です。
キリスト教は神の愛を以て世界人類を救済せんとして、博愛主義の旗を揚げるのですが、全人類救済というも、
キリスト教に帰依するものには愛は及ぶが、異教徒には及ばないばかりか、つい最近迄は人間としてみなさなかった。
キリスト教は十字軍や長期間の宗教戦争に代表される様にかなり独善的なものでした。又動物愛護と犬やイルカの問題で日本を批難するが、
それらは人間の心を和らげる為にすぎない。キリスト教では、動物は人間の為にあるものだとされている。
どんなに虐待されてもよいという。牛や豚は神が人類の為に下さったのだと感謝して食べる。捕鯨では昔は米国が第一位だったし、
濠州ではふえ過ぎたとして、カンガルーを虐殺している。仏教徒は一寸の虫にも五分の魂ありと平等に見る。時々動物の慰霊供養もする。
山川草木悉皆成仏という様にこの世のものは皆六大無碍と平等に見る。
博愛を説くキリスト教徒はその教えの普遍性を説くものの、実際の中味は、旧約聖書にあるユダヤ民族は神の選び給う民族であると、
ユダヤ民族が生きる為に、他の民族を犠牲にすることは許されるというユダヤ民族優先の思想が濃厚に流れている。
つまり、神の救いをユダヤ民族からキリスト教徒に広げただけであり、異教徒はその選にもれるというのです。このことは識者のよく知るところです。
この考えが高じて白人優位感情となる。丁度今日世界注目の的になっているイランの米大師館員人質問題がある。
表面上、人命尊重と国際外交条約の信義を破っているのはイラン側であるが、
この人質を救う為に平和手段を深く考えず武力行使の様相が強いことは、人質の代りに、
イスラム教徒たるイラン人に殺生を含む報復を行う意図が強く見える。
熱心なキリスト教徒（聖書に書かれていることは全て正しいというファンダメンダリストの教会に属す）
であるカーター大統領の失敗にもかかわらず米国民の支持を受けているのは、
小国の反発もさることながら異教徒たるイスラム教に対する感情的反発があるからかも知れません。
尤も信仰を認めない無宗教国ソ連の物理的侵攻による殺戮には米国も冷静に対処するが、宗教がかかわると感情的になる。
イスラエルとアラブの千年戦争も、お互いに聖地となる土地がかかわっているだけに問題が複雑である。
ユダヤ人のエルサレムへの巡礼とイスラム教徒のメッカへ巡礼する熱心な信仰心は共に一神教の持つ熱烈な力のしからしめるものです。
仏教徒のインド巡拝と次元が異なる。
宗教は民族感情と切り離せないことは日本人も同じことで、日本の神道、特に神社神道については、ここに述べるまでもありません。
併しながら、これは善悪の問題でなく、人間が持つ本能的凡情から発していることです。
世界各国には国際儀礼を尊敬いたします。外国から国賓が来た時は、必ず訪問者が、その国の無名戦士の墓に、
記念堂に最敬礼を以て詣るのが最も文明人らしき外交儀礼で、写真等でみるのみでも心暖まる光景です。
この場合は宗教儀式を取りません。だから感じがよいのです。
若し宗教儀式をとるとなると、迎える側と、訪れる側の信仰が異なった場合は何かギゴチ無い儀式に感じることでしょう。
日本の靖国神社は、この意味では一つの宗教となっていますから、日本人の中でも、宗教の異なる者、
例えば創価学会会員やキリスト教徒は靖国神社参拝を禁止している。多くの仏教徒は別に禁止もせず、特別な違和感なしに参拝していると思います。
私も縁あって昇殿参拝をいたしましたが、神社らしき神域と神在します感じを以て心から英霊に敬いの心と感謝の心は深いものがありました。
さて仏教に於ては、民族意識の強い感情的信仰内容は薄いというよりも無いといった方があたっている。
仏教では一切衆生平等と説き仏と衆生も平等という。同体大非の心を仏心という。
縁起の哲理から生れた教えであり、どこどこの国に生れた神だから偉いとかいうことがないのです。
特に密教ではマンダラの中にあらゆる仏、菩薩、神を包容して決っして争わないのです。
随って仏教の法要の回向文の内容は、多く怨親平等の心で書かれている。
高野山にお詣りした人は御存知だと思いますが、豊臣秀吉が、文禄の役が終った後に、日本軍の戦死者の供養と共に、
朝鮮側の戦死者の為に供養碑を建立している。
私が此度発願した昭和大仏建立は、日清、日露は勿論、第一次、
第二次両大戦迄の交戦国の犠牲者も同時に御供養すると共に一般の方々の御先祖、会社の物故者等広く御供養して、
正に御仏の大悲精神に立ったものです。
戦争も人間の業によって起こる。しかも永い時間を積み重ねて爆発した煩悩の業火なのです。
誰が悪いのか、誰が起こしたのかと戦争責任を追及しても解決するものではない。
人類が共同で作った迷いの上に立つ誤りだらけの政治、経済、外交、教育等、総て人間の迷いの心から引業された悲しい悲しい相互殺戮の業なのです。
ただ、人類は戦争した自国の英霊には誰しも悲泣するが、その時、同じく相手国の戦死した霊の菩提を、冥福を祈る気になる人は少ないものです。
むしろ逆に国民性によっては憎しみをもって相手の霊を見る場合もある。又国際赤十字精神の様に、交戦中でも敵味方の負傷者を平等に助けることもある。
日本人は戦後年を経るごとに、交戦国たる米国との悪感情は消え、むしろ一番親しみを持った国になっている。
今日、日本は平和の恩恵に浴しているが、更に一歩前向きで平和を祈る時、我国英霊や犠牲者は勿論、
同時に同じ戦争の犠牲になった交戦国の諸霊にも同じく冥福を祈るべきだと思うのです。その意味で私は昭和大仏建立を発願したのです。