会員の皆様にご挨拶申上げます。密門会の第二回年頭所感を述べることができた喜びに、深く責任を感じる思いです。
私等の集りは真実を求めるグループでありますから、容易に急増を期待されないが、堅実と誠実を要めとしている、一人一人が求道心に燃えた会です。
仏教の第一目的は、悟りにあります。悟りは同時に諸苦から解脱する心境を指します。多くの心は、現実の病苦を去れば、あとは仏、
菩薩は不用と考えられたり、或いは少なくとも仏様は元々あるから、会費を払う必要はないとする合理的経済中心の考えた方の人も多くあります。
この点では密門会の会員は、真の智識、仏様の内容、教えをよく勉強して生活の反省と、向上に工夫せられて、日々進歩向上しています。
会員御自身と会が一体に和合しているので私も嬉しい心で一杯です。
先般「親鸞と密教の核心」を書いたのは、前三著を世に出した以上は、その教の源となる、専門的な立場を鮮明にする必要を感じて、
経典と、真言密教の開祖たる弘法大師空海の著書を詳しく引用して、解説することにしたのであります。
何故に親鸞上人を頭文字に拝借したかと申すと、絶対他力易行の仏教、鎌倉時代に出られた親鸞上人が独り創唱されたと云われておりましたが、
実際はお大師様が千百余年前に既にお経の中からお示しになっているからです。
どうしたものか、真言宗の先徳方はこれを明らかにしないで、秘蔵して、これが密教の秘旨として公開されなかったために、
邪教が盛んになって、邪説が真の密教であると宣伝され、真実法門の加持門は知られてなかったことを私は嘆いたのです。
私は両大師の教を対照することによって、空海の真言密教の絶対他力易行道が鮮明になって、
多くの誤解を正解してゆくものと信じて、密教界への遠慮ない、私の信じ受けたままを書いたのであります。
また真宗の教えにしても、宗祖の親鸞の心は正解されず、その門徒の解釈は、往生極楽は、現世の果報を無視するのが真の宗教であって、
現世利益は悉く邪道なりと、烙印を捺し、真宗の説教の多くは空海を迷信邪教の親玉だとして、近づくことを禁じている布教師も多いのです。
随ってこれを聞く門徒は当然、死後の救いの約束を信じて、その信じた時から安心が生まれるから、これが生存中の安心立命になり、
その安心が報恩の念仏生活であると教えて、これに満足して、病や緒苦はあっても、この世は娑婆なるが故に当然病苦や、
諸々の難は避けられないのは止む得ないのが真理で、人力や、仏力に求め頼んではならないと信じさせてきました。
このために永い永い八百の歴史の中で、恐らく、大日如来の加持の救いに逢うことによって救われるべき多くの門徒も、唯、死後の安心を以って、
非常な苦しみの集積の中で娑婆の現実から消え去って行ったものと思われます。
尤も中には念仏の真意に達して、無為の大往生の門徒もあったと推察されますが、多くは、助かるべきことを知らないまま、
苦病の中に一生を終り、残された家族の老人や子供の悲しさ嘆きも、娑婆の当然のあるべきものとして歴史を綴って来たものです。
一方現世利益の表看板を懸ける真言、天台寺院は、山伏や行者の行う、誰から取入れたものか、六三の星とか、方位や、厄除けの秘法とか、
虫封じ、何々封じの法を有難く受けて、軽い病や、子供の夜泣きには効くかも知れぬが、肝腎の生死の悩みも解けず、
本来戴いておる、如来の大慈悲を知らず、山や滝の行、或いは霊場巡りせねば救われぬものとして、昔にすれば長丁場を要し、
多額の路銀そして道中の不安を乗越えた、決死的決意の信仰をもって、その願望を期待したり、正邪を弁えぬ為不自然な無理な願をかけ、
遙な結果を得て、しかもその苦因を知らないまま業果として諦観した記録が、今に伝えられています。
四国八十八ヶ所の起源はそんなに古いものでなく、恐らく、西国観音霊場の札所巡礼にその範を取り入れて、当時の智慧者の僧侶が、
寺門の興隆と共に、信仰上の助縁として案出して、霊験談を生み、或いは小説創作して「信」を喚起したものと云われています。
私も昭和十五年に四国巡礼を正月六日、徳島県第一番から打出したものです。成程一心に懺悔の心持と、大師の法跡を慕う心境は、
厳しい霊場の、険しい山道、農地を見ながら歩く時の心境は一切の俗念を忘れようとして一心に大師の御宝号を唱えて歩いたものです。
それまでの修行日課は早朝の起床と、真言行であり、しかも自力修行の観念行でありましたから、四国巡礼で歩いた八十八ヶ所は真に良い体験でした。
その頃の私は正直申しまして、早く大師さまの御霊験に、或は悟りの真の境地を、或は諸天善神の霊光でも拝めぬものかと、
心の中ではこの御利益、超能力的霊験に会えるか、恵まれぬかと期待したものです。
このような反省する今の私は、戦災を機会に一切それ迄に教えられた真言密教と一変した心境になったのです。
即ち世間虚仮、唯仏のみ真実とした、聖徳太子の遺文と、親鸞聖人の往生極楽の大方便こそ真実也として改めて信心の尊さに直入したのです。
そして結局、南無阿弥陀仏の念仏の奥に大日如来の絶対他力の本源ありと戴かせてもらったのであります。
阿弥陀如来の四十八願には、病人を救う願いが無いと聞いてから、遂に迷うことなく、大日如来を中心の真言易行道を戴いた訳です。
「三密加持」とは正に絶対他力の教えの体であることをつくづく感じさせて戴いたので、自然に今日に至った訳であります。
大日如来の真言に照らされ、改めて親鸞聖人の真意がよく照見されて、
信心の尊さと共に感謝の念仏が不断に湧出しなければならないことを知らされたのです。
ところが多くの真宗の方々は、信心は得たとしても、信心為本に執するあまり感謝の念仏易行が実行されていないから、
今一歩という大切なところで、折角戴いている大日如来の加持力を否定したり、迷信だとケナして、遂に助かるべき病者も、
薬禍を受けて寿命さえ縮めて、無理に無常を感じているのが実態ではないでしょうか。
この意味でも今年は『親鸞と密教の核心』を広く読んでいただく運動をしていただきたいのです。
昨年は懺悔行の大事を実行いたしましたが、今年は、共に真実の光に喜ぶ功徳を積む意味で、
真の助縁たる此の新刊書を一冊でも多くの人々に熟読されるように努力して、如来様の本願に協力いたしたいものであります。
永生の安心立命と共に現世利益の恵みは、苦行や難行でないことを一層実証したいものです。