宗内の緒徳の中には加持について種々と貴重なる体験をお持ちの方がおられると存じます。
この際大いに加持門の興隆のために発表されるならば、将来後輩の育成に益するところ大きいものと存じます。
小生昨年本誌に、癌の治った実例を発表させて貰えるかと、お訊ねしたことに、貴紙より早速、大きな期待を掛けられて、
眞に有難い事だと思って、実例を報告しようと思っておりました。既に拙著の中に、一部発表してありますので、
同じ記録を出すのも気が進まずにおりましたが、最近、専門医の検査の結果、乳癌の診断によって、
直ちに入院室まで決められたのが、その患者さんの娘さんが、長年手がふるえる病気で、種々の療法をしたが治らず、
結局私の方に来て簡単に治ったので、その体験者の導きによって、不肖私が加持祈祷をした訳です。
私は眞性の乳癌となれば、手術もよいということを聞いておりますが、折角の頼みでしたから一週間の日参をして、
一切薬物療法をしなければ引受けましょうと申して、その約束の下に施法をしました。
幸いに一日一日目に見えると申してもよい程の霊験があらたかなようでした。
本人はこれで必ず救われる治ると自信がついたと申して、入院一週間の延期も、ついに中止して、一心に信仰生活に入られました。
不眠症であったのも、よく眠るようになって、患部に触れてもシコリは日増しに小さくなってゆき、
遂に二ヶ月して感じない程になって、治った思いのようでしたが、油断しないようにとして、結局四ヶ月を祈って、一応一区切りをした訳です。
昨年八月から年末までの参詣で、其後再発或いは転移しなければよいがと思っておりましたが、他の風邪をひいたり、
神経の感ずる痛みでもあればと注意しましたが、痛いことがあっても、乳癌の症状と全く異なり、随って自分では完治したと思っているとのことでした。
随って今日元気で仕事を手伝っているとのことです。
私はこれなら発表してもよいと思って、稿をお送りすることにしたのであります。
これと同じようなお方が他に二人ありますが、これも嘘のように快方でありますが、一人はしばらく様子をみたが、
再発の憂いがないので、名前も発表します。
前者は六十七才、・・さんで東京都新宿区・・。後者は東京都台東区・・、・・さん、五十八才であります。今一人は、
再発の心配なき経過を見てから発表いたしますが、四十八才ですから、もっとよく治るものと期待されます。
この最近の実例の外に、二年程前ですが、札幌市の・・（六十五）さんの胃癌の例もあります。四月から転移した胸部骨髄癌も
、治ったと言える程であったのが、昨年冬に喘息を併発して、肺癌の心配をしたがこれも無事を得て、加えて不眠症も治ったそうです。
御主人はクリスチャンだったが、それが為に密教に関心を深くして、遂に仁和寺における四月の密門会の講習会に参加し、
三日間の受講によって、さすがに在家信者としては、優秀な所得を文章によって報告してきております。
まだ奥さんは完全でないが、大略ありのままに好転著しいとのことです。（三月から祈っていない）
かく加持力の威大さを感じるものの、外に加持の霊徳で甚しい奇蹟を示した、千葉市の・・さんのお孫さんの、
横紋筋肉腫（最も悪性の癌）に於ては、正に医学上の一大奇蹟とも言えるもので、・・で、あと五日の生命といわれたのが、
全く専門大家達の診断を裏切って、無薬のうちに六日を経過した病院の規則のため、三才未満児の入院をそれ以上許されず、・・に移されて、
医者達は病状の経過が珍しいので、試験実験のために好転して元気になった三才の子に大手術することになったことを知った祖母が、
日頃加持力の威大さを確信していたので、遂に手術反対をして、医師団の不満の叱言、おどしがあったが屈せず、
承知せずに通し医師団から悪婆扱いされたのでした。かくして二ヶ月大きかった横紋筋肉の堅い太もも全体が、小さく卵大になり、
それさえも感じなくなって、遂に医師団から、帰宅を命じられたのでした。この間にあった問題は、
一冊の本になる程の面白い経過を聞いたものでしたが、結局、注射も物理療法もしなかったから、加持法の威徳を見るに至ったものです。
さて、この良き霊験の中でも珍しい事実も、肝腎の両親の不信心と、私が叱責したことが感情的となったのか、
この母なる人が、一度も寺にお礼詣りがなく、寧ろ病院の酸素室に一時三日間入れたことと、栄養注射一本しただけの処置を高く評価して、
あくまで病院のお陰としたのでした。
再発は当然のことで、三ヶ月間の祈りでは、まだまだ根治したとは言えないものであります。
私が出張先から帰ってきたら、再三の電話があったとのことであるから、恐らく再発したことと思ったのが、正ににその通りでした。
読者諸君よ。これは大切なことで加持法は宗教であって、治療術ではないということです。
頼んで金を払えばよいとの考えと、周囲の人々が皆加持の御威徳なりと申しておるのだから、
直接来寺して再び心願を掛けるなら引受けるが、既に入院したというので、私は断ったのです。
何故断ったかは、あれ丈のお陰を見てもサッパリ信仰がない、祖母の信仰は厚いが、実の両親がその心が起らないために、
子供の生命を助けたい心はあるでしょうが、あくまで、科学療法に期待するというので私は断ったのです。
このことは読者諸君は、私は極端な妄信家だと解釈する人も少なくないと思うのですが、今迄の経験が、折角好転して、
この分なら手術しなくとも治ると自分も信じた者が、入院中であれば、医師の処方、処置を拒否することが出来ない。
医師は自分の処置が意外に威効があったと誤って信じるのも無理がないことであるから一層薬物を用いる、
即ち抗癌剤を打つために、急に悪化することがよく判る。
殊に今日の病院では、食事は口で食べられるのに、点滴を用いるのであるから、
残念ながら早く生命を終焉に導くのではないかと思わざるを得ないのです。
実例として、手術のつもりで開腹したが、癌の転移が広いため切除不能として、
そのままに縫い合わせて退院させた患者が、平素の無信者でも万死に一生の藁をもつかむ心で祈りを求めるケースが多いが、
死期一ヶ月、或いは二ヶ月と診断された患者が助かった例が、何故に治ったかは薬科がないからであると判断せざるを得ないのであります。
この信念が、・・の乳児の横紋筋肉腫の不愍な生命も、親が病院の療法を受けると申したので、結局駄目になると思いながらも、
この子の若い両親の信仰を、菩提心を引き出したいためであったのと、万事薬剤で治せるなら、拝見したいものと思ったのでした。
この経過を病院で実際に見た祖母の話をきくと、無理矢理に強力な抗癌剤の注射を打った為薬禍反応の著しいことを度々見て、
医者がこれでも死なないか、これでもか、この子は生命が強いと話しながら打つ注射に、身を切られる思いでしたとのことで、
折角信仰の深い祖母の祈りも空しく、ついに再入院二ヶ月で幼い生命が終わったのでした。
このように事実を知る私は癌についてだけは、入院中の患者の依頼を受けないことにしております。
随って入院前に求め来る癌患者の来ることは、甚だ希であるため、私の努力する相手がない訳であり、
加持力の尊さを守るためには、何でも引受けたいが、その実効がないと疑われることを恐れて、門を狭くしている訳です。
幸いに、・・さん、・・さんの実例は、入院しないのと、薬禍を防ぐことを実行して信じたから、
速効が最後まで続けられたものと思わざるを得ないのです。随って、抗癌剤のない、昭和二十年から三十年前迄の胃癌や腸の癌に診断されたり、
子宮癌と決定しても、早期に救うことができた例が多かったのです。当時は治った奇蹟をそのまま認めた医師があったが、
今は絶対にそういうことはあり得ぬと、医者が思っているので、どうしても一度入院すると、最期まで点滴療法で、
全く血管が入らなくなるまで、さまざまな薬を混ぜて打つことを知ると、益々現代医学に信頼する気持ちになれないことと、
この事実を知る以上は、残念乍ら尊い加持門の安売りは、法の尊さを傷つける結果となることを知るから、固く條件としております。
宗内の祈祷寺の緒徳は、西洋医学の薬禍の心配がないとの体験のあるお方は、お教え頂きたいものであります。
大師が、嵯峨天皇に、加持水を差上げた時に、薬と合わせて用いるようにとの記録は、
当時の漢方薬時代に在す大師は現代なら果して同じお考えであられるか、常に私は注意しなければならない、大事なことだと思っております。
この際紹介しておきたいことは、東京大出の、医科学研究所に十二カ年研究されつつある・・博士は
、私の道場に三カ年、毎朝五時から六時の入道で、一心に真言念誦に励まれ、今回絶対に薬禍を来たさない生薬を用いる診療所を、
横浜市・・に近日開業することは、真面目な医師程その薬禍の恐るべきを知っているからであります。（六大新報昭和五十三年九月五日号掲載）